白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
チュンチュンと、今朝も小鳥の囀りが私を起こしてくれる。
えぇ、別に寝れなかったわけではない。起こしてくれたから。起こされちゃったから!
「はぁ……なんで今日も早起きしちゃうかな……」
翌日。
久々にゆっくり寝れるぞー! 変なこと叫ばないですむぞーなんて浮かれるのも、結局いつもの時間に目覚めてしまった。だけど、今日はお迎えが来ないはずなのに、それでも窓の外を何度も何度も見てしまう。
そんな自分に、ベッドの上で膝を抱えながらため息が出る。
「やっぱり、あんなにダンスの下手な令嬢は引かれるのかなぁ」
目を閉じて思い出すのは、あの痛々しげな痣のエドの足ばかり。「平気だよ」と笑うエドの前髪の下の目が笑っていないような気がしてならなかった。
せめて一人でも練習しようとお父様に講師を頼んでみたものの、「これ以上体力使って倒れられたら」と心配され、練習させてもらえない。こっそり部屋で復習していても、何がどうダメなのかさっぱりわからない。
詰んでいた。さすがの『リイナ』大好きエドワード王子でも、幻滅しておかしくないレベル。
よく読んだ異世界チート主人公たちは、本当に物語だったんだなぁと痛感する。
こんな生まれながらも勝ち組人生をプレゼントされたにも関わらず、私はこんなにダメダメなのだ。
魔法も使えない。
チートできるだけの知識もない。
令嬢として当たり前の作法もダンスも何もできない。
ショウみたく料理などの特技もない。
前世では、ただただ入退院していただけの私だ。勉強も最低限。誰とでも仲良くなれるようなコミニュケーション能力もなければ、友達ひとりまともにいた経験がない。彼氏や婚約者なんてもってのほか。
ただ私を心配して励ましてくれる両親に、たくさんの愛情をもらって。暇つぶしに漫画や雑誌を読んで、色々なことを妄想して。
そんな私が調子に乗って、王子をイケメンに育ててやるなんて息巻いた。
イケメンになった彼に釣り合うだけの『自分』がないのに。
だから、私は再び布団に潜る。モゾモゾとシーツの中で丸くなるだけ。
「なーにやってんだろ、私」
「暇なら僕とお出かけしようよ」
リイナ、と耳元で囁かれて。
私が慌てて跳ね起きると、そこにはだいぶスッキリ痩せたエドワード王子が、相変わらず柔和な笑みを浮かべていた。
「えええ、え、エドワード様?」
「もう、エドって呼んでくれないと……うーん、どうしようかな」
なんて苦笑されても、私はパクパクと何も言葉が出てこなくて。
「リイナ今日はお寝坊さんなんだね。どうする? まだ眠いなら、今日はやめておく?」
「え? あ……だって、今日から朝の散歩は中止なんじゃ――――」
「うん。散歩はね。リイナの理想にはまだ遠いのかもしれないけど、減量は上手くいっているからさ。ダンスの練習に時間を割いた方がいいかと思って」
あ、そういうこと……?
伝言の言葉足らずを責めるよりも前に、私の口からは不安が溢れる。
「私と踊るの……嫌じゃないんですか?」
「どうして? すごく楽しいよ」
「でも、一向に上達しないし」
「そんなことないよ。少しずつだけど、確実に上手くなってる」
その優しすぎる言葉に、私は自分の予想以上にホッと胸を撫で下ろして。
そんな自分に、私は「もしや」という考えが浮かんで。
でも考えが結ぶ前に、エドが私に大きな箱を差し出した。
「これ、僕からのプレゼント」
「え?」
「ちょっとはしたないかもしれないけど、しばらくの間だけ我慢してくれないかな。なるべく人払いはするからさ」