白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
箱を開けると、そこにはワンピースが入っていた。膝丈くらいの、前世で憧れていたようなワンピース。それを着せてもらって(相変わらず慣れないけど)、エドに連れて行かれたのはいつもとは違う園庭だった。
色とりどりの花が咲き誇る様は、まさにお花畑。芳しい香りに思わず感嘆の声を漏らすも、その花畑は少しだけおかしかった。
花のない部分が、迷路みたいに道を作っているのだ。
「エド、ここは……?」
「土の上なら、足も痛くないでしょう?」
靴を脱いで、ズボンの裾を捲ったエドがその花畑に足を踏み入れる。
一陣の風が吹いた。花びらが舞う中で、長身痩躯の王子様が私に両手を広げる。
「リイナ、おいで! この道の通りに僕がエスコートするから」
あぁ、そうか。
実を結んだ考えに苦笑してから、私はヒールを脱ぎ捨て、エドの胸に飛び込んだ。
「練習のために庭園を改造したんですか? やりすぎです」
「そうかな? 将来の花嫁さんのためなら、どうってことないと思うけど。それより、足は寒くない? こんな場所だから動きやすい方がいいかと思って、丈の短いのを用意させたんだけど」
「平気です」
なんてことない。むしろありがたい。足首まであるスカートを捌くのは、未だ苦労していたのだから。
――でも、じきに慣れなくちゃ。
王子の優しさに甘えてばかりいないで。
いつか『イケメン王子』の隣に立つに相応しい本物の令嬢になれるように。
たとえその足が薄汚れた土足であっても、一緒に足を汚してくれる人のためであれば。
「それじゃあ、僕と一緒に踊ってくれませんか?」
差し出された手に、私はそっと手を重ねる。
胸にじんわりと広がる気持ちは、前世でも味わったことがない。
それは心地よいけど、なんだか少し苦しくて、
「あ、ごめんなさい!」
「ふふ、大丈夫。むしろもっと踏んで」
「もう、意地悪言わないでくださいっ!」
何度も何度も、私の足はもつれてしまう。
この気持ちの名前が『恋』ならいいな。
小説や漫画でたくさん読んで憧れた感情がこれならいいな。
――それは、私のささやかな願いだ。
そして、その光景もまたたく間に広まった。
それは毎朝花畑で踊る二人が、とても幸せそうだという噂だ。