白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
「相変わらず、王子は姫にベタ惚れですな。想いが通じたようで私も――――」
「だから余計なことは言わないでいいから」
ピシャッと行商人さんの言葉を遮りつつも、エドはマイペースに小首を捻る。
「あーでもやっぱり他のにしようかなぁ。こんな色っぽいリイナを他の人に見せたくないしなぁ。ねぇ、リイナ。僕はどうすればいいと思う? この際だから、一生僕の部屋に閉じ込めておけばいいのかな?」
「はっはっは。リイナ様、如何なさいますか?」
いやぁ、行商人さんも笑ってエドの機嫌を取ろうとしているようだけど、如何も何も笑い事じゃないぞ。とても和やかに、そして物騒なことを言われて気がするぞ? でもそれを言及する前に、私には訊かねばならないことがある。
「なんで、私で布合わせしているんですか?」
「リイナのドレスを作るからだよ」
「なぜ、私のドレスを? エドの衣装を選びに来たのでは?」
そもそもなんで布から? とツッコみたいところだが、そこから訊くと話がややこしくなるからグッと呑み込んで。
だけど、エドは相変わらずの穏やかな笑みのまま言う。
「そうだよ。僕の衣装を選びに来たんだよ」
「それなら――――」
「でも、リイナを引き立てるための衣装なんだから、リイナの衣装が決まらないとどうにもならないでしょ?」
「え、それは――――」
「あ! リイナ。既製品でいいとか、すでにあるのでいいとか言わないでよね! リイナと出る久々のパーティなんだから。ここで節約とか言ったら、僕泣いちゃうよ?」
「あ、あのぉ……」
「ふふ。リイナと踊るの楽しみだなぁ。何年ぶりだろうね。リイナずっと最近具合悪かったから……またリイナと一緒に踊れるなんて、僕は嬉しいんだ」
もう、そういうこと言われちゃうと、私は弱いってば……。
頭に過ぎるのは、前世で叶えられなかったたくさんの約束。
また〇〇に行こうね。
また〇〇しようね。
家族と交わした約束を、私はいくつ破ったのだろう。
そう言ってくれた両親の顔をふと思い出した時、エドは私の肩を揺らした。
「リ、リイナ! どど、どうしたの?」
「エド、また話し方が……」
「泣かないで。ごめん、騙すような形で連れてきて、僕……」
エドがそっと私の目から涙を掬う。その指の温かさに、私はようやく泣いているのだと気が付いた。
考えても仕方ないと、思い出さないようにしていたけれど。
たとえ生まれ変わった先が、夢みたいなお姫様生活だったとしても。
たとえ前世が、病気で苦しいものだったとしても。
懸命に私を支えてくれた両親を、死という形で悲しませてしまったこと。
どう考えても親不幸だった私が、今更泣いたところで何になるんだか。
だから、私は無理やり笑顔を作る。
「あぁ、やっぱり適当に丸め込んで、ドレスを作るつもりだっ――――」
軽口で終わらせて。怒らせて。また吃ってと文句を言わせて。
そんな心の中のワガママごと、エドは私が苦しいと思うくらい力強く抱きしめてしまう。
「ごめんね。大丈夫だから。ごめんね」
謝罪と。慰めの言葉と。
「僕は、君に出会えて良かったと思っているよ」
そんな優しい言葉を言われてしまえば、私は顔をクシャクシャに歪めることしか出来なくて。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
――あーもう、行商人さんが居づらくなって部屋を出て行っちゃったじゃない。
そんなこと言う余裕すらなく、エドの胸に顔を埋める。
いきなり泣いてしまってごめんなさい。
私が『リイナ』じゃなくてごめんなさい。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
その理由を口にすることが出来ず、私の啜り泣く声は、エドの温もりの中で溶けてしまう。
「だから余計なことは言わないでいいから」
ピシャッと行商人さんの言葉を遮りつつも、エドはマイペースに小首を捻る。
「あーでもやっぱり他のにしようかなぁ。こんな色っぽいリイナを他の人に見せたくないしなぁ。ねぇ、リイナ。僕はどうすればいいと思う? この際だから、一生僕の部屋に閉じ込めておけばいいのかな?」
「はっはっは。リイナ様、如何なさいますか?」
いやぁ、行商人さんも笑ってエドの機嫌を取ろうとしているようだけど、如何も何も笑い事じゃないぞ。とても和やかに、そして物騒なことを言われて気がするぞ? でもそれを言及する前に、私には訊かねばならないことがある。
「なんで、私で布合わせしているんですか?」
「リイナのドレスを作るからだよ」
「なぜ、私のドレスを? エドの衣装を選びに来たのでは?」
そもそもなんで布から? とツッコみたいところだが、そこから訊くと話がややこしくなるからグッと呑み込んで。
だけど、エドは相変わらずの穏やかな笑みのまま言う。
「そうだよ。僕の衣装を選びに来たんだよ」
「それなら――――」
「でも、リイナを引き立てるための衣装なんだから、リイナの衣装が決まらないとどうにもならないでしょ?」
「え、それは――――」
「あ! リイナ。既製品でいいとか、すでにあるのでいいとか言わないでよね! リイナと出る久々のパーティなんだから。ここで節約とか言ったら、僕泣いちゃうよ?」
「あ、あのぉ……」
「ふふ。リイナと踊るの楽しみだなぁ。何年ぶりだろうね。リイナずっと最近具合悪かったから……またリイナと一緒に踊れるなんて、僕は嬉しいんだ」
もう、そういうこと言われちゃうと、私は弱いってば……。
頭に過ぎるのは、前世で叶えられなかったたくさんの約束。
また〇〇に行こうね。
また〇〇しようね。
家族と交わした約束を、私はいくつ破ったのだろう。
そう言ってくれた両親の顔をふと思い出した時、エドは私の肩を揺らした。
「リ、リイナ! どど、どうしたの?」
「エド、また話し方が……」
「泣かないで。ごめん、騙すような形で連れてきて、僕……」
エドがそっと私の目から涙を掬う。その指の温かさに、私はようやく泣いているのだと気が付いた。
考えても仕方ないと、思い出さないようにしていたけれど。
たとえ生まれ変わった先が、夢みたいなお姫様生活だったとしても。
たとえ前世が、病気で苦しいものだったとしても。
懸命に私を支えてくれた両親を、死という形で悲しませてしまったこと。
どう考えても親不幸だった私が、今更泣いたところで何になるんだか。
だから、私は無理やり笑顔を作る。
「あぁ、やっぱり適当に丸め込んで、ドレスを作るつもりだっ――――」
軽口で終わらせて。怒らせて。また吃ってと文句を言わせて。
そんな心の中のワガママごと、エドは私が苦しいと思うくらい力強く抱きしめてしまう。
「ごめんね。大丈夫だから。ごめんね」
謝罪と。慰めの言葉と。
「僕は、君に出会えて良かったと思っているよ」
そんな優しい言葉を言われてしまえば、私は顔をクシャクシャに歪めることしか出来なくて。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
――あーもう、行商人さんが居づらくなって部屋を出て行っちゃったじゃない。
そんなこと言う余裕すらなく、エドの胸に顔を埋める。
いきなり泣いてしまってごめんなさい。
私が『リイナ』じゃなくてごめんなさい。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
その理由を口にすることが出来ず、私の啜り泣く声は、エドの温もりの中で溶けてしまう。