白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
「ふふ、落ち着いた?」
「お、おかげさまで……」
腫れた目を冷たいハンカチで抑えながら、私がエドがメイドさんに頼んでくれた温かいお茶を一口。嬉しそうに笑っているエドの顔を直視できない。
「な、なんでそんなに嬉しそうなんですか?」
「え? だってリイナの泣き顔見ちゃったんだよ? 僕が意地悪したから、泣いちゃったんでしょ? 男としてこれほどそそることはないよね?」
えーと、その言葉の意味は分かりかねるのですが……。
追求してはいけない雰囲気を察し、小さく咳払いをする。
「そ、それで、結局私のドレスを作るんですか?」
「うん。さっきの布でシンプルに仕立てさせようと思っているよ。もっと可愛らしい方が良かったかな?」
桃色の可愛らしい髪に、それに相応しい愛らしい顔立ち。そんな『リイナ』にはフワフワのプリンセスドレスが似合いそうな気もするが、
「まぁ、私は頂戴する立場なので……お任せします」
そう告げると、エドは満足げに頷いてから、顎に手を当てた。
「それであとは僕の衣装なんだけどさ……どうしたいいかなぁ?」
「どうしたらと言いますと?」
「うん。もちろんリイナとドレスに合わせるつもりではあるんだけど……別に全部が全部嘘吐いたわけじゃなくてね。自分で自分の服を選ぶとか初めてで、どんなの選べばいいのかわからないんだ」
「初めて?」
エドワード王子だって、聞く所によると『リイナ』より年上の十八歳だ。それだけ生きてきて服を選んだことがないとか、白豚王子だったとはいえ呆れるしかない。
だけど、エドは当たり前のように「全部使用人が選んでくれるしね」なんて言って。
私の常識とする価値観や環境との違いにめまいを感じながら、私はまたお茶を一口飲んだ。そして気付く。
「このお茶……」
透き通る鮮やかな緑。ほのかに香るお米の風味。昔、家でお母さんが入れてくれたお茶にそっくりな優しい温かさに目を丸くすると、エドはニッコリと微笑んだ。
「それ、見習いコック――リイナも知っているよね。ショウと相談して、開発を進めているものなんだ」
え? なんでショウと知り合いなこと知っているの? てか、一緒に開発って? ショウのレシピが採用されていることは知っているけど(ダイエット食のこともあるし)、お茶の開発って? カテキンとか身体にいいとは言うけれど……。
そんな脳内の疑問色々を、エドはなんてことないとばかりに「まぁ、そんなことより」と流して話題を変えてしまう。
「僕ってどんな色が似合うのかな?」
そこからかい。
服とか以前に色からかい。
「……好きな色は?」
「リイナの好きな色」
答えになってないやい。
私は大きなため息を吐いて、改めてエドの顔をまじまじ見た。
王子様王道のキラキラした金髪。白い肌。目の色が――――見えない。
「ねぇ、エド。今更ですけど」
「どんなことでも言って。リイナに興味持ってもらえるだけで僕は嬉しいんだ」
そう朗らかに微笑む彼の目は、長い前髪の奥にあって。
「私、エドの瞳をまともに見たことがないです」
「それはどんな比喩なんだろう?」
いや、言葉そのまま。前髪が邪魔で見えないってことなんだけど。
「その前髪、邪魔でじゃありませんか?」
私が率直に尋ねると、エドは「あーこれ?」と自分の髪を掴む。
「言われてみればそうだね。前に切ったのはいつだったかなぁ? ここのところリイナと過ごす毎日が楽しすぎて、すっかり忘れていたよ」