白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
いいえ、私は覚えています。出会った時からあなたの髪は適当なざんばらでした。
「せっかく痩せてカッコよくなっても、そんな髪型じゃ台無しです。切ってください」
「じゃあ、リイナが切ってくれる?」
はい、読めてた! いい加減そんな流れになるだろうことは、今までの経験上学んでます。
「前髪だけでいいのでしたら」
そのくらい、毎日お風呂に同行したり、中庭で愛を叫ばされたりしたことに比べれはお茶の子さいさい。いくらでも切ってやらぁというもの。
嬉しそうにエドが「じゃあ、ハサミ用意させるね。よく切れるけどリイナが絶対に怪我しないようなやつ」とメイドさんに言いつけ、あっという間に用意される銀色のシンプルなハサミ。
「リイナ、ハサミの使い方はわかる?」
「大丈夫です」
私を何歳だと思っているんだか……呆れつつもハサミを受け取ると、メイドさんがエドの首周りに大きな布を巻く。
「床はあとで掃除させるから、気にしないでいいからね」
そう言ってエドはソファに座ったまま、姿勢良く動かなくなった。
「いつでもどうぞ」
「……目は閉じておいてくださいね」
花びらが舞っているかと錯覚するほど嬉しそうに待たれると、こっちは緊張してしまうのだが……。
女は度胸。たかだか前髪を切るだけだと、己の胸に再確認して、私は彼の髪に手を伸ばす。
サラサラとした毛ざわりは、私が言いつけて手入れさせているもの。本当、最初のギトギト状態だったらこうして触れるだけでも嫌だったなぁ、なんて苦笑して、私はハサミを動かした。
シャキッと刃が交差すると、ハラハラと金糸が落ちていく。
その奥にあった星々のようにきらめく瞳が、ゆっくりと弧を描いた。
「はじめまして、僕のお姫様」
それを見て、私の心臓が警鐘を鳴らす。
やばい。絶対にやばい。
完全に私の理想とする王子様が、そこにいたから。
「えへへ。邪魔なものがなくなると、リイナがよく見えていいね」
はにかんで。そんなことを言う王子様が可愛くて。
それなのに、私のハサミを持つ手に触れながら、
「リイナが僕に刃を向けるのも、たまにはいいね……ゾクゾクする」
そう笑う目に、私の背筋が震えてしまって。
思わずハサミを落として、エドがそれを拾おうと視線を逸した瞬間、
「し、失礼しますっ!」
私は慌てて、その場から逃げてしまった。
やばい。本当にやばい。
このままでは、完全に堕ちてしまう。
これはきっと、恋ではない。
あの物語たちのような、綺麗なものではない。
爽やかな、私の理想とする少女漫画みたいな爽やかなものではない。
もっと、ドロドロとした底なし沼のような。
あるいは、二度と這い上がれない地獄のような。
そんな予感から、私は思わず逃げ出すことしか出来なかった。
「せっかく痩せてカッコよくなっても、そんな髪型じゃ台無しです。切ってください」
「じゃあ、リイナが切ってくれる?」
はい、読めてた! いい加減そんな流れになるだろうことは、今までの経験上学んでます。
「前髪だけでいいのでしたら」
そのくらい、毎日お風呂に同行したり、中庭で愛を叫ばされたりしたことに比べれはお茶の子さいさい。いくらでも切ってやらぁというもの。
嬉しそうにエドが「じゃあ、ハサミ用意させるね。よく切れるけどリイナが絶対に怪我しないようなやつ」とメイドさんに言いつけ、あっという間に用意される銀色のシンプルなハサミ。
「リイナ、ハサミの使い方はわかる?」
「大丈夫です」
私を何歳だと思っているんだか……呆れつつもハサミを受け取ると、メイドさんがエドの首周りに大きな布を巻く。
「床はあとで掃除させるから、気にしないでいいからね」
そう言ってエドはソファに座ったまま、姿勢良く動かなくなった。
「いつでもどうぞ」
「……目は閉じておいてくださいね」
花びらが舞っているかと錯覚するほど嬉しそうに待たれると、こっちは緊張してしまうのだが……。
女は度胸。たかだか前髪を切るだけだと、己の胸に再確認して、私は彼の髪に手を伸ばす。
サラサラとした毛ざわりは、私が言いつけて手入れさせているもの。本当、最初のギトギト状態だったらこうして触れるだけでも嫌だったなぁ、なんて苦笑して、私はハサミを動かした。
シャキッと刃が交差すると、ハラハラと金糸が落ちていく。
その奥にあった星々のようにきらめく瞳が、ゆっくりと弧を描いた。
「はじめまして、僕のお姫様」
それを見て、私の心臓が警鐘を鳴らす。
やばい。絶対にやばい。
完全に私の理想とする王子様が、そこにいたから。
「えへへ。邪魔なものがなくなると、リイナがよく見えていいね」
はにかんで。そんなことを言う王子様が可愛くて。
それなのに、私のハサミを持つ手に触れながら、
「リイナが僕に刃を向けるのも、たまにはいいね……ゾクゾクする」
そう笑う目に、私の背筋が震えてしまって。
思わずハサミを落として、エドがそれを拾おうと視線を逸した瞬間、
「し、失礼しますっ!」
私は慌てて、その場から逃げてしまった。
やばい。本当にやばい。
このままでは、完全に堕ちてしまう。
これはきっと、恋ではない。
あの物語たちのような、綺麗なものではない。
爽やかな、私の理想とする少女漫画みたいな爽やかなものではない。
もっと、ドロドロとした底なし沼のような。
あるいは、二度と這い上がれない地獄のような。
そんな予感から、私は思わず逃げ出すことしか出来なかった。