白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜

パーティ本番



 当日。準備といってもさすがは令嬢。到着までのスケジュールが全て用意されており、ベルトコンベアーに乗せられた商品のごとく、気がつけば全身ラッピングされていた。

 ただ少しだけ呼吸が苦しくて。きっとそれは、いつもより締められたコルセットのせい。

「緊張しているのかい?」

 城へ向かう馬車の中で、ビシッと正装を決めたお父様に問われる。

「……少しだけ」

「大丈夫だよ。今日のリイナは、いつも以上に綺麗だ。王子が許してくれるなら、私がダンスに誘いたいくらいだよ」

「娘を口説かないでください」

 軽口を返しながら改めて見ると、ナイスミドル。いつもより大人の色気を漂わせている父に、私は気晴らしの世間話を振り返す。

「お父様は、新しい妻を娶らないのですか?」

「なっ、何をいきなり?」

 あ、顔が真っ赤になった。あからさまに狼狽える様子がおかしくて、私の口角がニヤリと上がる。

「だってお父様カッコいいですし。お誘いの声がかかったりしないのですか?」

「あのねぇ……いくら父でも、娘にそういうことを話したくはないのだけど」

「あら、リイナ寂しいですわ」

 わざとらしくしょげて見せると、お父様も笑い皺を深くした。

「でも、君が本当にそれを望むなら、一考してもいいかもしれないね」

「……私は、お父様が幸せになってくれるのが一番ですよ?」

 それは、本心だ。
 亡き妻の忘れ形見を一人で守ってきた男。その忘れ形見が今や『ニセモノ』なんだから。

 ――少しでも、報われますように。

 ニセモノの娘として、そう願うことがせめてもの恩義。

 そして、それはきっと『リイナ=キャンベル』も望んでいることだと思うから。

 私が前世の両親に幸せでいてほしいと、願うように。
 ガタガタとした揺れが止まり、「旦那様、お嬢様」と扉が開かれる。

 先に降りた父が、私に向かって手を差し出した。

「それでは、少しばかりエスコートさせてもらっても構わないかな。私のお姫様(マイ・プリンセス)

 同じ言葉でも、それは私の心にじんわりと広がって。

「喜んで」

 手袋越しに重ねた手は、とても大きくて温かい。


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