白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
「……もう忘れてください!」
堰を切ったように言い放ち、一人でズンズン歩く。だけど側を離れないエドの追求は過剰になるばかり。
「そそ、そんなこと言わないで? どうしたの? お、お腹すいた? 少し早いけど、ご飯にする?」
「結構です」
「えーと……じゃ、じゃあ、久々におお、お菓子でも食べようか。すすすぐに用意するよ!」
「慌てると吃る癖を直す方が先決では?」
あーあ。嫌な女。一人で拗ねて、それこそ面倒くさい女。
一人でスタスタ歩いていると、いつの間にか立ち止まっていたエドの声が届く。
「しばらく、会えなくなっちゃうのに……」
そうですよ。しばらく会うことも話すことも出来なくなっちゃうんですよ。
別に前もって言われたからって、何が出来るわけじゃない。ただただ寂しいなと思う期間が増えるだけ。それでもダンスパーティのお返しなら、もっと早くに決まっていた話なんでしょう? だったら、すぐに教えてくれても良かったじゃない。
一緒に「寂しいね」と言い合う不毛な時間を、もっとくれても良かったじゃない……。
「て、手紙……!」
それでも、結局我慢できなくなるのは、もう私の方なのだ。
あーあ、本当に面倒くさいね。
「エ、エドは手紙をしたためたことはありますか?」
「え? まぁ……執務でもよく書くし、それなりには……」
「ラ、ラブレターは?」
「らぶれたー?」
しまった――ラブレターて言葉もこの世界にはないの? だけど、出てしまった言葉は戻らない。
「恋文です! 離れた場所にいても愛を伝える画期的で最先端の古代から伝わる前衛的な手段です!」
「いや、ラブレターはわかるし、まぁ昔からある伝統的な文化だとは思うけど」
なんだよ、わかるんかい。じゃあ、わざわざなんで聞き返したのさ。
私がジーッとエドを睨むと、彼は慌てて両手を振る。
「あっ、ごめんね! 決してリイナを馬鹿にしたかったわけじゃないんだよ! ただね、びっくりしたの。リイナがそんなこと言ってくれるなんて思わなかったから」
「……意味がわかりません」
「リイナがね、そんなむくれてまで寂しがってくれるなんて、思ってなかったんだよ」
エドの笑顔は花のようだった。
「ふふ、嬉しいなぁ。そっかぁ……リイナが寂しがってくれるのかぁ。僕、頑張ってラブレターいっぱい書くね」
暑くなってきた庭園では、大きめの花が咲き誇るようになっていた。緑も色濃く、その中でも王子の嬉しそうな顔は大輪の花より華やかで。
あーもう勘弁してよ、と額に手を当てるのは、この日差しのせいにしていただきたい。
「べ、別に寂しいから言ってるわけじゃありませんからね! イケメン王子たるもの、文字でも女の一人や二人口説けなくてどうするんですか、という話で――――」
「うんうん。大丈夫だよ。他国で浮気なんて絶対にしないから。そんな心配させないくらい、思いっきりリイナへの想いを書き連ねるからね」
「いや、あのだからそういうんじゃなくって――――」
「あー可愛い便箋を用意しておかないとなぁ」
会話がまったく噛み合っていないにも関わらず、エドは私の手を取って楽しそうに歩き出す。私もエドへ小言を返しながら、その手を握り返した。
きっと明日もいい天気になりそうだ。まだ朝だけど、そんな気がした。
堰を切ったように言い放ち、一人でズンズン歩く。だけど側を離れないエドの追求は過剰になるばかり。
「そそ、そんなこと言わないで? どうしたの? お、お腹すいた? 少し早いけど、ご飯にする?」
「結構です」
「えーと……じゃ、じゃあ、久々におお、お菓子でも食べようか。すすすぐに用意するよ!」
「慌てると吃る癖を直す方が先決では?」
あーあ。嫌な女。一人で拗ねて、それこそ面倒くさい女。
一人でスタスタ歩いていると、いつの間にか立ち止まっていたエドの声が届く。
「しばらく、会えなくなっちゃうのに……」
そうですよ。しばらく会うことも話すことも出来なくなっちゃうんですよ。
別に前もって言われたからって、何が出来るわけじゃない。ただただ寂しいなと思う期間が増えるだけ。それでもダンスパーティのお返しなら、もっと早くに決まっていた話なんでしょう? だったら、すぐに教えてくれても良かったじゃない。
一緒に「寂しいね」と言い合う不毛な時間を、もっとくれても良かったじゃない……。
「て、手紙……!」
それでも、結局我慢できなくなるのは、もう私の方なのだ。
あーあ、本当に面倒くさいね。
「エ、エドは手紙をしたためたことはありますか?」
「え? まぁ……執務でもよく書くし、それなりには……」
「ラ、ラブレターは?」
「らぶれたー?」
しまった――ラブレターて言葉もこの世界にはないの? だけど、出てしまった言葉は戻らない。
「恋文です! 離れた場所にいても愛を伝える画期的で最先端の古代から伝わる前衛的な手段です!」
「いや、ラブレターはわかるし、まぁ昔からある伝統的な文化だとは思うけど」
なんだよ、わかるんかい。じゃあ、わざわざなんで聞き返したのさ。
私がジーッとエドを睨むと、彼は慌てて両手を振る。
「あっ、ごめんね! 決してリイナを馬鹿にしたかったわけじゃないんだよ! ただね、びっくりしたの。リイナがそんなこと言ってくれるなんて思わなかったから」
「……意味がわかりません」
「リイナがね、そんなむくれてまで寂しがってくれるなんて、思ってなかったんだよ」
エドの笑顔は花のようだった。
「ふふ、嬉しいなぁ。そっかぁ……リイナが寂しがってくれるのかぁ。僕、頑張ってラブレターいっぱい書くね」
暑くなってきた庭園では、大きめの花が咲き誇るようになっていた。緑も色濃く、その中でも王子の嬉しそうな顔は大輪の花より華やかで。
あーもう勘弁してよ、と額に手を当てるのは、この日差しのせいにしていただきたい。
「べ、別に寂しいから言ってるわけじゃありませんからね! イケメン王子たるもの、文字でも女の一人や二人口説けなくてどうするんですか、という話で――――」
「うんうん。大丈夫だよ。他国で浮気なんて絶対にしないから。そんな心配させないくらい、思いっきりリイナへの想いを書き連ねるからね」
「いや、あのだからそういうんじゃなくって――――」
「あー可愛い便箋を用意しておかないとなぁ」
会話がまったく噛み合っていないにも関わらず、エドは私の手を取って楽しそうに歩き出す。私もエドへ小言を返しながら、その手を握り返した。
きっと明日もいい天気になりそうだ。まだ朝だけど、そんな気がした。