白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
おずおずと尋ねると、王子は「ふふふ」と笑う。
「すごく可愛い。恋い焦がれていたリイナよりもっとずっと可愛い。その花、僕と一緒に植えたやつ?」
「そうです。昨日一輪だけ取ってきたんですけど……よく気づきましたね」
「当たり前でしょ? 僕はリイナのこと何でもわかるんだよ?」
また一歩間違えたらストーカー発言を……なんて内心呆れていると、エドの笑みが深まる。
「だから隠さずに教えて欲しいんだけどさ」
私が何気なく首を傾げると、エドは言った。
「君は、あの見習いシェフのことが好きなの?」
「はい?」
聞き返しながら、気がついてしまう。いつもの優しい星のような眼差しが、ひどく冷たいことに。
「ふふ。その顔は誰のことか検討がついているみたいだね」
「えーと……ショウさんのことですよね?」
「ふーん。さん付けなんだ?」
今は同世代みたいだけど、前世では圧倒的年上みたいだからね――なんて言えるわけもなく。私が黙っていると、エドは笑みを崩さないまま話した。
「僕のいない間、内緒で君に護衛をつけてあってさ。彼からの報告によれば、頻繁に会っていたそうじゃないか。どういうことか、説明してもらえる?」
護衛といえば聞き覚えはいいが、それって監視なんじゃ……。
だけど、揚げ足取るようなことを言える雰囲気ではなく。震える拳を握りしめ、私は口を動かす。
「どういうこともなにも……普通におやつを食べながら、お喋りしていただけです」
「彼の作る料理、とても気に入っているみたいだよね。胃袋掴まれちゃった?」
「……その言い方、悪意を含んでいませんか?」
「まさか! 僕がリイナを傷付けるようなこと、今まで言ったことあった?」
大袈裟に手を広げるエドに、私は首を横に振る。いつも私を思いやるような優しい言葉しか、私はかけられたことがないから。
それでも……だからこそ、今彼が怒っていることが一目瞭然なのだ。
「エド。聞いて下さい。ショウさんとは何も――」
だけど、彼の勘違いを言うよりも前に、私の唇はふにっと彼の人差し指で押さえられてしまう。
「今は僕が聞いているの。ねぇ、リイナ。本当のことを言ってくれていいんだよ? リイナと彼は同類なんだから、息が合うことも多いと思うんだ。同じ境遇だから苦労も分かち合えるだろうし。悩みを共有するたびに、リイナが勘違いしちゃうこともあるかもしれないけど……」
フニフニと、彼の指差しが私の唇を弄ぶ。その恥ずかしさと彼から出てきた言葉が、私の頭を混乱させた。
同類? 同じ境遇?
その単語に「まさか」と思い当たることを、私は口にすることが出来なかった。
私が霊人……異世界転生者だとバレてしまったのなら。
私が『リイナ=キャンベル』ではないとバレてしまったのなら。
彼からもう、愛情を受けることが出来なくなってしまうから。
「でもね、リイナ。忘れちゃいけないよ」
私の震える唇を、エドがそっと親指で撫でた。
「君は僕の婚約者。その髪の先から足の先まで、君の全ては僕のモノなんだ」
エドが笑みを浮かべたまま、私をトンッと軽く押す。後ろにはちょうどベッドがあって。ぽすんッと尻もちを付くと同時に、私はエドに押し倒されてしまっていた。
「それなのに、僕へ手紙一つ返さず、他の男に気安く頭とか触らせるんだもの……僕、もう我慢出来なくなっちゃった」
彼の顔がゆっくり近づく。嫌悪感なんて一つもない。私が育てた、理想を超えた王子様とのキスを、拒否る理由なんて一つもない。
「ねぇ、リイナ。『いけめん』も閨事はキスから始めればいいの?」
「すごく可愛い。恋い焦がれていたリイナよりもっとずっと可愛い。その花、僕と一緒に植えたやつ?」
「そうです。昨日一輪だけ取ってきたんですけど……よく気づきましたね」
「当たり前でしょ? 僕はリイナのこと何でもわかるんだよ?」
また一歩間違えたらストーカー発言を……なんて内心呆れていると、エドの笑みが深まる。
「だから隠さずに教えて欲しいんだけどさ」
私が何気なく首を傾げると、エドは言った。
「君は、あの見習いシェフのことが好きなの?」
「はい?」
聞き返しながら、気がついてしまう。いつもの優しい星のような眼差しが、ひどく冷たいことに。
「ふふ。その顔は誰のことか検討がついているみたいだね」
「えーと……ショウさんのことですよね?」
「ふーん。さん付けなんだ?」
今は同世代みたいだけど、前世では圧倒的年上みたいだからね――なんて言えるわけもなく。私が黙っていると、エドは笑みを崩さないまま話した。
「僕のいない間、内緒で君に護衛をつけてあってさ。彼からの報告によれば、頻繁に会っていたそうじゃないか。どういうことか、説明してもらえる?」
護衛といえば聞き覚えはいいが、それって監視なんじゃ……。
だけど、揚げ足取るようなことを言える雰囲気ではなく。震える拳を握りしめ、私は口を動かす。
「どういうこともなにも……普通におやつを食べながら、お喋りしていただけです」
「彼の作る料理、とても気に入っているみたいだよね。胃袋掴まれちゃった?」
「……その言い方、悪意を含んでいませんか?」
「まさか! 僕がリイナを傷付けるようなこと、今まで言ったことあった?」
大袈裟に手を広げるエドに、私は首を横に振る。いつも私を思いやるような優しい言葉しか、私はかけられたことがないから。
それでも……だからこそ、今彼が怒っていることが一目瞭然なのだ。
「エド。聞いて下さい。ショウさんとは何も――」
だけど、彼の勘違いを言うよりも前に、私の唇はふにっと彼の人差し指で押さえられてしまう。
「今は僕が聞いているの。ねぇ、リイナ。本当のことを言ってくれていいんだよ? リイナと彼は同類なんだから、息が合うことも多いと思うんだ。同じ境遇だから苦労も分かち合えるだろうし。悩みを共有するたびに、リイナが勘違いしちゃうこともあるかもしれないけど……」
フニフニと、彼の指差しが私の唇を弄ぶ。その恥ずかしさと彼から出てきた言葉が、私の頭を混乱させた。
同類? 同じ境遇?
その単語に「まさか」と思い当たることを、私は口にすることが出来なかった。
私が霊人……異世界転生者だとバレてしまったのなら。
私が『リイナ=キャンベル』ではないとバレてしまったのなら。
彼からもう、愛情を受けることが出来なくなってしまうから。
「でもね、リイナ。忘れちゃいけないよ」
私の震える唇を、エドがそっと親指で撫でた。
「君は僕の婚約者。その髪の先から足の先まで、君の全ては僕のモノなんだ」
エドが笑みを浮かべたまま、私をトンッと軽く押す。後ろにはちょうどベッドがあって。ぽすんッと尻もちを付くと同時に、私はエドに押し倒されてしまっていた。
「それなのに、僕へ手紙一つ返さず、他の男に気安く頭とか触らせるんだもの……僕、もう我慢出来なくなっちゃった」
彼の顔がゆっくり近づく。嫌悪感なんて一つもない。私が育てた、理想を超えた王子様とのキスを、拒否る理由なんて一つもない。
「ねぇ、リイナ。『いけめん』も閨事はキスから始めればいいの?」