白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
4章、イケメンだろうと白豚だろうと
小鳥編
また季節が一つ移ろおうとしていた。暑さもだいぶ落ち着き、木々の緑が落ち着きを見せ始めている。開けた窓から吹く風はまだ冷たくないものの、いつも窓辺に遊びに来る小鳥が少し色褪せている気がした。
あの日から、私は一度も城に行っていない。
行けない。呼ばれていないから。迎えに来てくれないから。行く理由もない。あんな誤解されて、ショウに会おうとも思わない。というか、エドのいるすぐ側で会う勇気なんてない。
「お嬢様、殿下とはお会いにならないのですか?」
家庭教師の授業が終わり、本を読む私にお茶を持ってきてくれたメイドさんが、眉をしかめている。それに私が何も答えられずにいると、メイドさんは言った。
「あくまで噂なのですが……殿下との婚約がなくなった、なんてことはないですよね?」
私の胸がズキンと痛む。
そんな申し出はまだ私の耳に入っていない。だけど、いつされてもおかしくない。
彼は、私が浮気をしたと思っているのだから。
そして、おそらく彼は私が『リイナ=キャンベル』でないと気付いているのだから。
やっぱり私の言動がおかしかったのだろう。見た目だけの『リイナ=キャンベル』は、彼の寵愛を受けるに相応しくなかった。きっと、ただそれだけのこと。
「……まだ、私の耳には届いてないですね」
私がそう告げると、メイドさんの顔がますます歪む。
「差し出がましいことを、申し訳ございません。あくまでそんな噂を耳にしただけで…
…ただ、申し訳ついでにこれだけは知っておいてください」
視線を下げたメイドさんが、緩やかに微笑んだ。
「わたしは、近頃のリイナお嬢様が大好きでした。今もこうして本を読み、殿下のために勉強したりお洒落しようとしているお姿を、とても可愛らしく思っております」