白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
 餌もあげていないのに、気がつけばいつも毎日窓辺にちょんちょんといた子だった。この屋敷にもそれなりに木々はあるし、屋敷自体も大きい。きっと近くに巣があるのかな、なんて思いながら、どこかで感じていた異世界の暮らしの寂しさを励ましてくれる友達だと、それこそ勝手に思っていたり。鳥の見分けなんて付かないから、同じ子なのかも知らないで。

 そんな子が、私の手の中で動かなくなってしまった。
 その事実を受け入れるのに時間を要していると、

『リイナ』

 聞き覚えのある声が、私の名を呼ぶ。

『泣かないで大丈夫だよ。それは僕の使役する精霊だから。すぐに生き返るよ』

 その声の持ち主を探して、私はキョロキョロと見渡す。だけど、その姿はどこにもない。メイドさんが「まぁ」と口元を押さえているだけで、目に毒になってしまったイケメン王子も、見るに堪えない白豚王子も、どこにもいない。

 だけど、その声は確かに聞こえた。

『全部説明するから、城においで。待ってるから』

 あなたにすごく会いたくて。だけどすごく会うのが怖くて。

 そんな王子様の声は、そこで途絶えてしまった。代わりに、手のひらの小鳥が急にクルッと身を起こす。そして一礼するかのように私にくちばしをツイツイと動かして、そのまま元気に窓の外へと飛んでいってしまった。

 その行き先は、彼の使役者が待つお城。
 その国の王とそれに準ずる者たちが御わす、白亜の城。

 エドワード王子が待つ、ランデール王城だ。




 迎えの馬車がすぐにやってきた。中には王子ではなく、見覚えのある近侍さん。

「エドワード様がお待ちです」

 馬車の中で、会話は何もない。ただ私の頭の中はグチャグチャだった。

 ショウが持ってきたお団子に毒かなにかが入っていた。
 それを私が食べる寸前に、エドの精霊が庇ってくれた。

 そして、ちょうどいいタイミングで迎えの馬車がやってきた。

 彼が全て教えてくれるのだという。何から何まで流されっぱなしの私に、きっとわかりやすく説明してくれるのだろう。だからこそ、私の胸に靄がかかる。

 ――全部、彼の手のひらで踊らされている?

 今までだってそうだ。イケメンにしようとアレコレ言った挙げ句、いつも彼の都合よくまとめられてきた気がする。

 彼に口説かれ、恥ずかしくて、嬉しくて。いつしか私は彼に恋心を抱いた。

 ガタガタと馬車に揺られながら、ふと思い出す。

 入院中にあまりに退屈で読んだ、売店で買った男性向けの漫画。そのラブコメ漫画のヒロインが「なんでこんな?」とツッコみたくなるほどあっさりと目をハートにしていたのだ。

 そういったヒロインのことを、俗語で『チョロイン』と呼ぶのだという。

 ――彼にとって、私はチョロかったんだろうなぁ。

 さぁ、彼の話を聞きに行こう。

 彼を騙していた私の末路。私の初めて抱いた恋心の末路。
 どんな沙汰になるのか、全ては私が育てたと勘違いしていた王子様次第だ。


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