白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
「エドワード王子がそんな余計なこと言うから、俺いじめられたんじゃないですか? 身分差とか嫌う人も多いでしょうよ。だから俺、毎日芋剥きばかりですよ」
「そうかな? 伊達に城の料理人たちは王家に仕えている人々だからね。みんなそれなりの身分の人たちばかりが集められていたと思うけど。それに料理長は、君が率先して下ごしらえしているから助かるって言ってたよ。だからよく芋を筆頭に食材が君の試作品に消えているけど、大目に見ているんだって」
他にも、ショウが作る賄いがとても好評だということ。その試作品の数々を料理長がエドに推薦して、たまに私も食べていた城での食事に提供されていたということ。
そんな明るい話を、エドはとても楽しそうに語る一方、ショウは唇を噛むだけとなっていた。
そして、エドは言う。
「料理長がね、もし叶うことなら君を養子にしたいとまで言ってたんだ。彼もそれなりの家の出だからさ。君さえ良ければ、料理長には君が霊人だということを明かし、その話を通そうかと父上と相談もしていたんだよね。だから……僕としても、今回の件はとても残念だったんだ」
「料理長……」
小さく呟いたショウは俯き、力なく笑った。
「あのおっさん、いい人すぎるんだよ……孫見るような目で俺のこと見ちゃってさ」
料理長の怒鳴り声を、私も一度聞いたことがある。その時のショウは、これから怒られるのに、なぜか嬉しそうで。たとえ会ったことがない相手でも、良い関係を築いているんだな、とわかるくらい。
そんな厨房で、いじめなんて起こるはずがない。
あの時覚えた違和感は、きっとそれだったんだ。
「お嬢ちゃん、嘘ついてごめんな。あの時の奴らは、盗賊の残党だよ。魔法で短距離なら瞬間移動ができるやつがいてな。それで乗り込んできたわけ」
私に謝っても、彼は私を見て来ない。下を向いたまま淡々と語るだけ。
「俺の故郷……こっちの世界に生まれ変わってからのな。そこはすごく貧しい村でさ。気がついた時には、俺は孤児院で世話になっている五歳のガキだったんだけど。みんなでヒイヒイ言いながら一生懸命働いている優しい村だったんだよ」
ショウが見ているのは、その故郷の思い出なのだろうか。転生して日の浅い私とは違い、この世界での思い出を思い出しているのだろうか。
「ある日、俺が十歳の時だったか。村が盗賊の襲撃に遭ってさ。あっという間に村を燃やされて。俺も殺されそうになったんだけど、霊人のだということを明かして、仲間になる代わりにこれ以上村を襲わないことを約束させたんだ」
それは、とても悲しい思い出。まるで漫画の悲劇のヒーローのような過去。
想像しやすく。実感しづらく。
空想だからこそ美談であり、自分の身に起きたらと思うと、辛すぎるからこそわからない。
彼が、どんな気持ちで日々を過ごしてきたのかなんて。
「それでまぁ、盗賊団の仲間になって……それなりに上手くやってたんだけど。例のキャンベル嬢誘拐に失敗して、倒壊。俺はまた霊人ということでこのように確保してもらったんだが……兵士の手から逃げた奴らが何人かいてな。そいつらが言ってきたんだよ」
なぜか、私の目から涙が落ちそうになる。だけど、私は唇を噛んで必死に堪えた。
「嬢ちゃんを殺さないと、故郷の村人を全員殺す――――と」
私が泣くわけにはいかない。辛いのは私じゃない。それなのに、あんなに優しくしてくれたショウの気持ちを想像すると、どうしても涙腺が止まってくれない。
エドは無表情でそんな私を一瞥してから、ショウに尋ねる。
「そうかな? 伊達に城の料理人たちは王家に仕えている人々だからね。みんなそれなりの身分の人たちばかりが集められていたと思うけど。それに料理長は、君が率先して下ごしらえしているから助かるって言ってたよ。だからよく芋を筆頭に食材が君の試作品に消えているけど、大目に見ているんだって」
他にも、ショウが作る賄いがとても好評だということ。その試作品の数々を料理長がエドに推薦して、たまに私も食べていた城での食事に提供されていたということ。
そんな明るい話を、エドはとても楽しそうに語る一方、ショウは唇を噛むだけとなっていた。
そして、エドは言う。
「料理長がね、もし叶うことなら君を養子にしたいとまで言ってたんだ。彼もそれなりの家の出だからさ。君さえ良ければ、料理長には君が霊人だということを明かし、その話を通そうかと父上と相談もしていたんだよね。だから……僕としても、今回の件はとても残念だったんだ」
「料理長……」
小さく呟いたショウは俯き、力なく笑った。
「あのおっさん、いい人すぎるんだよ……孫見るような目で俺のこと見ちゃってさ」
料理長の怒鳴り声を、私も一度聞いたことがある。その時のショウは、これから怒られるのに、なぜか嬉しそうで。たとえ会ったことがない相手でも、良い関係を築いているんだな、とわかるくらい。
そんな厨房で、いじめなんて起こるはずがない。
あの時覚えた違和感は、きっとそれだったんだ。
「お嬢ちゃん、嘘ついてごめんな。あの時の奴らは、盗賊の残党だよ。魔法で短距離なら瞬間移動ができるやつがいてな。それで乗り込んできたわけ」
私に謝っても、彼は私を見て来ない。下を向いたまま淡々と語るだけ。
「俺の故郷……こっちの世界に生まれ変わってからのな。そこはすごく貧しい村でさ。気がついた時には、俺は孤児院で世話になっている五歳のガキだったんだけど。みんなでヒイヒイ言いながら一生懸命働いている優しい村だったんだよ」
ショウが見ているのは、その故郷の思い出なのだろうか。転生して日の浅い私とは違い、この世界での思い出を思い出しているのだろうか。
「ある日、俺が十歳の時だったか。村が盗賊の襲撃に遭ってさ。あっという間に村を燃やされて。俺も殺されそうになったんだけど、霊人のだということを明かして、仲間になる代わりにこれ以上村を襲わないことを約束させたんだ」
それは、とても悲しい思い出。まるで漫画の悲劇のヒーローのような過去。
想像しやすく。実感しづらく。
空想だからこそ美談であり、自分の身に起きたらと思うと、辛すぎるからこそわからない。
彼が、どんな気持ちで日々を過ごしてきたのかなんて。
「それでまぁ、盗賊団の仲間になって……それなりに上手くやってたんだけど。例のキャンベル嬢誘拐に失敗して、倒壊。俺はまた霊人ということでこのように確保してもらったんだが……兵士の手から逃げた奴らが何人かいてな。そいつらが言ってきたんだよ」
なぜか、私の目から涙が落ちそうになる。だけど、私は唇を噛んで必死に堪えた。
「嬢ちゃんを殺さないと、故郷の村人を全員殺す――――と」
私が泣くわけにはいかない。辛いのは私じゃない。それなのに、あんなに優しくしてくれたショウの気持ちを想像すると、どうしても涙腺が止まってくれない。
エドは無表情でそんな私を一瞥してから、ショウに尋ねる。