白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
 いやだ。
 やめて。
 好きなの。
 あなたのことが大好きなの。
 たとえ白豚でも。少し肌が汚くなろうとも。私はあなたと一緒にいたいの。

 そう叫びたい気持ちに、私は目を瞑る。
 たとえそれで恋が終わろうとも、私の友達が殺されるのは嫌だから。

 どうせ、この恋は叶わないのだから。
 彼が恋をしていたのは私ではなく『リイナ』なのだから。

 それは、天秤にかけるまでもない選択でしょう? そうでしょう?

「わかり……ました……」

 下を向いた私がそう答えると、エドの手が固く握られた。だけどすぐに、エドは「じゃあ、これで話は終わりだね」と扉を開ける。

「今までお疲れさま。帰っていいよ。キャンベル公爵には、僕から話しておくから。あ、キャンベル家に害があるようなことにはしないからね。僕の一方的なわがまま、ていうことにしておくよ」

「ありがとう、ございます……」

 帰っていいよ。そう言われたのは二回目だ。彼がそう言うということは、私が粘っても意味がないということ。

 だから今度は大人しく、彼の言うことを聞く。最後までダダを捏ねて、これ以上嫌われたくはない。それでも、

「エド。最後に――――」
「ん? なぁに?」

 気安い返事に、私は彼の顔を見る。
 少し太った王子様。それでも好きだと思った王子様。

 そんな彼に、私の言葉を――だけど、いざ彼の顔を見ると、それを言う資格すらないように思えて。

「なんでも、ありません……」

 私は踵を返し立ち去ろうとすると、背中越しに言われる。

「……本当はね、霊人を極刑になんて出来ないんだ。精霊に愛されている君らを殺そうもんなら、精霊を敵に回すということだからね。精霊の恩恵を受けて生活している僕らに、そんなことが出来るはずがない」

「……つまり、私は試されたということですか?」

「そういうことだね」

 ――あぁ、そうか。

 この会話も、私の葛藤も、全て茶番だったのだ。エドワード王子の手のひらの上で、また弄ばれただけ。きっと私は、また彼の予想通りにチョロかったのだろう。

 だけど、あまりショックを受けなかった。ショウが残念そうな顔をしているけれど、私はとても腑に落ちた。

 だから、私はショウに声をかける。

「ショウさん、またショウさんのご飯食べさせて下さいね」

 すると、彼の目が大きく開いた。

「きみ、本気で言っているのか? 俺はきみを殺そうとしたんだぞ?」

「でも、ショウさんのご飯なら絶対に美味しいもん」

 お味噌汁も。ポテトチップスも。お好み焼きも。水羊羹も。どれもこれも全部美味しかった。その味を、私の食べる姿を嬉しそうに眺める笑顔も、忘れろなんて言われても無理な話だ。

「たとえ毒が入っていようと、ショウさんの料理なら何でも完食しますからね」

 冗談めかして言うと、ショウが目尻にシワを寄せて笑った。

「ばかやろう」

「えへへ」

 女は度胸。

 だから笑顔で終わろうと思った。この場を泣いて去るのだけはやめようと思った。

 ショウを利用するようで悪いけど、おかげで私は泣くことなく、彼に背を向けることが
出来る。

 この恋は、始めから無理だったのだ。
 エドに疑われた時点で終わっていた恋。
 私が『リイナ=キャンベル』になりきれなかった時点で無理だった恋。

 だから、部屋から出た私は自分で扉を閉める。それがせめてものプライドで、ずっと騙していたせめてもの償い。

「とても残念だよ、リイナ」

 最後に聞こえたその声が、とても淋しげだったけど。
 それに応える権利が、私にはない。


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