白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
 身長は、私より頭一つ分くらい高いから百八十センチくらい。
 体重は、馬が乗せることを全力で嫌がるほど。
 なお、それを支える筋肉もない。

 そんな人に提案出来るダイエットなんて、もうこれくらいしかなかった。

「グフフ。リイナと散歩出来るなんて、ううう嬉しいなぁ……」

 笑っている場合じゃないやい。朝の清々しい空気。東西南北の庭それぞれ趣が違う庭園。ゆったりと談笑しながら歩くのは、確かに病み上がりの私にも悪くないんだけど。

「……毎朝、私も付き添わないとダメなんですか?」

「ごご、ごめんね! 日中は公務や勉強で忙しくて、時間がなかなか……」

「そうではなくて。今日は初日だから同伴してますが、一人の方がもう少し歩くペースを上げられるのでは?」

 出来ることなら、少しでもハイペースで歩いてもらいたい。令嬢という立場上、私は低めであってもヒールとロングスカートを強いられているのだ。どうしても、歩くのはゆっくりになってしまうし、そもそも面倒。

 だけど、シュンとしょげた王子は言う。

「でも一人だと僕、サボっちゃうかも……」

「かもではなくて――――」

「あ、リイナ見てみて。このお花、リイナに似合いそうだよ」

「え?」

 私の言葉を遮って王子が指差すのは、赤い花弁が艶やかな大輪の花だ。

「リイナ、いる?」

「え? あ、はい」

 私が反射的に返事をすると、エドワード王子はその花を手折り、私の髪へと差してきて。

「うん、やっぱり可愛い」

「あ、ありがとうございます……」

 そのご満悦として様子に思わず照れると、彼はまっすぐに私を見つめて、視線を逸してくれない。一秒。二秒。無言の間のいたたまれなさに、私が先に視線を逸した。

「あ、あの……エドワード様?」

「ああああ、ごめんね。怖かったね。うん、すごく似合っているよ。ねぇ、リイナはどんな花が好き? 今度種を手配するから一緒に植えようか。散歩がてらに毎朝水やりするなんてどうかな?」

 急に饒舌になった言葉の数々と、目的があった方が運動は続くかもという打算。
 それらが絶妙に脳内で交差した結果、私は「いいですね」なんて頷いていて。

「ほほほ、本当? 嬉しいなぁ。グフフ。明日からが楽しみだよ」

 白豚の破顔に「しまった」と後悔したのは、後の祭りだった。

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