白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
入浴編
「リリ、リイナ。綺麗な花が咲くといい……ね!」
「そうですね」
白豚王子ことエドワード様の提案通り、私達は朝の散歩がてら、花壇に種を植えていた。いやぁ、この朝活を始めて一週間。本当に毎朝迎えが来るとは思わなかった。
このランデール王国は温暖な地域らしく、雨もめったに降らないらしい。だけど、よくファンタジーものである治水問題に巻き込まれたらどうしよう……なんて心配は杞憂に終わった。
「じゃじゃじゃ、じゃあリイナ。水を撒くから少し離れていてね」
私が一歩後ろに下がったことを確認するや否や、エドワード様はブツブツと何か呟いたのち、その両手から生まれた水をゆっくり土に掛けた。
そう――魔法である。あのファンタジー世界なら誰もが夢見る魔法である!
もうこの世界に魔法があると知った時はテンションが上りましたよ。治癒魔法とか使って「聖女様」なんて呼ばれるのもいいし、バリバリの攻撃魔法でモンスターを薙ぎ払うのもまた一興。異世界転生者ならではのチート能力でステータスが見れたり、何でも収納ボックスみたいな便利魔法が使えたり……なんて夢は、夢で終わりました。
「終わった――――」
振り向いたエドワード様が、ハッとする。
「そそそ、そんなにガッカリした顔しないで! ごめんね、僕が見せびらかせるように魔法なんて使っちゃってごめんね! でででで、も、リイナはあんな大病から生還したんだ。行きているだけで奇跡なんて言われて、それで魔法が使えなくなっても……」
どうやら『私』の記憶が戻る前の『リイナ=キャンベル』は、魔法が使えたらしい。そもそも、この世界の貴族と呼ばれる人たちは魔法が使えるという設定らしく、彼らが整備してくれた魔法具とやらで、生活基盤が整っている。だから、治水や衛生問題も魔法で解決済み。ファンタジーな雰囲気のわりに快適な生活を過ごせているのが貴族さまさま。ありがたや。
というわけで、貴族のトップに君臨する王子様も、当然魔法の使い手なのだが。
「そそそ、そうだ! 明日からはちゃんとジョウロで水をあげようよ! きっと僕なんかよりリイナから水をもらった方が、花もね、きっと……ううん、ぜぜ絶対に喜ぶと思うんだ!」
その王子は、魔法が使えなくなっちゃったリイナに遠慮しまくりなのである。
いやあ……誰がお水をあげようと、そんなの変わらないと思うんだけど。
それに、別に拗ねているわけじゃないし。魔法なんて使えなくても、普通に息切れせず歩いたり、花壇をいじれるようになっただけでも、前世から比べれば奇跡みたいなものだし。
「お気遣い……ありがとうございます」
「あああああ、本当にごめんね! そ、そうだ! 今日もお菓子を持ってきたんだよ! 果物がたくさん入ったケーキだから、きっとリイナも――――」
あぁ、必死に弁明している様は可愛いと思わないわけでもないんだけどさ。
正直、一週間毎日顔を合わせていれば、デブも慣れるもの。美人も三日で飽きるではないけれど、デブも三日で慣れるという人間の感覚は、けっこう適当だなぁなんて思わないでもない。
だけど汗をダラダラと掻きながら、必死に訴えてくる顔に、私は思わず目を背けた。
ばっちい。そして臭い。
率先して土いじりをしてくれていたから、汗もたくさん掻いたのだろう。周りが見えていないのか、いつもより距離が近いのがまた困ったもの。鼻がギトギトだけでなく、唇がガサガサなのまで目に付いちまったい。
適当な人間の感覚であっても、不潔という不快感には慣れないものらしい。まぁ、そんなものに慣れたくないのだけども。
「そそ、それで今日合わせる紅茶なんだけど――――」
「エドワード様、一つ質問なのですが?」
「なな、何だろう?」
「お風呂は、きちんと毎日入ってますか?」