スイレン ~水恋~
脚がもつれかけてスカートの裾が踊った。なんで志田が。

訊く間もなく、そのままSUVの助手席に乗せられ。覆い被さるように腕を伸ばした彼が、あたしにシートベルトを装着したのをぼんやり。駐車場から滑り出した車はあっという間にお兄達を置き去りにした。

「黙ったままだね、赤ずきんちゃん」

ゆるゆると隣りを仰ぐ。

「帰りたいなら送ろっか」

片手ハンドルの柳さんが薄く口角を上げて言った。

無理強いしない優しさのようでいて。自分で出した答えの責任は自分に取らせる厳しい(ひと)

不安も後悔も懺悔も、吐きそうなくらいあるの。お兄にあんな顔させて平気でいられるほど図太くなんかない、だけど。首を横に振った。

「・・・頭の中がまだちょっと散らかってるだけ。ついて来る気がなかったら、とっくに車から飛び降りてるわ」

強がりを混ぜた本音。

「柳さんこそ・・・志田が呼んだってなに?」
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