スイレン ~水恋~
灰色の夕暮れ。肌に纏わりつく空気は七月にしては不快じゃない。カツン、コツン。敷石にヒールの音が小さく響く。
「赤ずきんちゃん家に来るの久しぶりだなぁ」
こうなる予想はしてたのか、まるで気にしてないのか。体を寄せて歩く男には露ほどの緊張もない。
「ポニーテールの可愛い女子高生に声かけたら番犬が吠えて、淳人に出禁にされたっけ」
「うそ、全然おぼえてない」
思わず足が固まり、隣りをまじまじと見上げた。後ろをついてきた靴音も遅れて止む。
とにかく世界はお兄一色で、それ以外の男が人間に見えてなかった頃。何だか勿体ないことした自分がちょっと口惜しい。
「いいよ。オマエに会うまでオレも忘れてた、あの約束」
腰を抱かれたまま艶めかしい笑みが近付き、前髪の上に落ちたキス。
「それとも思い出さない方が良かった?」
「赤ずきんちゃん家に来るの久しぶりだなぁ」
こうなる予想はしてたのか、まるで気にしてないのか。体を寄せて歩く男には露ほどの緊張もない。
「ポニーテールの可愛い女子高生に声かけたら番犬が吠えて、淳人に出禁にされたっけ」
「うそ、全然おぼえてない」
思わず足が固まり、隣りをまじまじと見上げた。後ろをついてきた靴音も遅れて止む。
とにかく世界はお兄一色で、それ以外の男が人間に見えてなかった頃。何だか勿体ないことした自分がちょっと口惜しい。
「いいよ。オマエに会うまでオレも忘れてた、あの約束」
腰を抱かれたまま艶めかしい笑みが近付き、前髪の上に落ちたキス。
「それとも思い出さない方が良かった?」