スイレン ~水恋~
「淳人より可愛がれる自信があるんですがね」

形を作った隆二の唇から、やんわり吐き出される。

「連れ合いには向きませんよ、オレは」

「なんだ?観念して、梓を貰うってんじゃねぇのか。誕生祝いにしちゃ無粋なこと言いやがる」

冷笑した気配。あたしは。のり付けされたように隆二から視線を剥がせないまま。・・・まま。

「感心しねぇな。たぶらかす相手は選べ、テメェの命より高くつくぞ?」

「・・・無粋に聞こえたなら詫びを入れさせてもらいます」

「詫びより聞きてぇのは、俺の娘を背負(しょ)えねぇ訳とやらだ」

今度は皮肉めいた響きが滲んだ。静かすぎる隆二の横顔はさっきから何も読めない。あたしを見ない。

「女は他に要りませんが、余計な荷物で両手が塞がってるもんで」

淡い微笑みが流れた。

「抱えてやれない代わりに何でも望みを叶える約束でしてね。・・・あとはオマエが選べばいい、オレでもオレじゃなくても」

ふいに闇色の眸に囚われて。息が止まった。
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