スイレン ~水恋~
自動で脳に印字されてく単語の文字列。目が勝手に追いかけ意味を咀嚼してた。一緒に来たのは、あたしに選ばせるためだった・・・?

相手がこの男じゃなかったら、とにかく問い詰めて、一発くらいはお見舞いしたかもしれない。柳隆二を普通の物差しじゃ計れないのを、本能で嗅ぎ取ってたからか、自分らしくないほど冷静に受け止めてた。

結婚ていう目に見える形でも結ばれたい。それは偽りのない本心だけど。一番の宝物にされて存分に甘やかされて、十分幸せじゃないの?あたしの中のあたしが問う。

壁を壊して世界を変えてくれた(ひと)。心の透き間を埋めてくれた男。隆二の代わりは誰もいないの、もう体の一部なの。失えないどうしたって。選べっていうならあたしは・・・!

抱きかかえて、なんて言わない。隆二の両手が塞がってるならシャツを掴んで、自分で隣りを歩くわ。お兄に花嫁姿を見せてあげられない負い目が一生残ったとしても、あたしはっ。

「隆・・・」

「柳さんと行くつもりなら、今日限りで兄妹の縁を切る」

出かかった言葉が、重く低い声に一瞬で削ぎ落とされた。まるで刃が真上から振り下ろされたかのように。

「俺は本気だ。・・・言ったはずだな梓」
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