スイレン ~水恋~
お兄の手の中で揺れる琥珀色の水面。静かにグラスを傾ける横顔に釘付けになって。

「極道の家に生まれついた以上、日陰はついて回る。血生臭さからも逃れられん、だからこそ強くなれた。あずを守るのは一生俺の役目だ」

深い声に込められる想いを聞き零したくなくて。

「お前が最期まで笑ってくれさえすれば俺は報われる。これから先も見届けさせてくれ」

「お兄・・・・・・」

見つめる眼差しが陽だまりみたいに優しくて。

たまらずお兄の胸元へと顔を埋めた。頭を撫でてくれる大きい掌の温もり。そこから注ぎ込まれる限りない愛情。

失くしたくないの。
報いたいの。

それだけあれば幸せだったの。
他になにも要らなかったの。
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