スイレン ~水恋~
「お兄がいてくれたからあたしは」

声が詰まった。胸が詰まった。

「極道の娘に生まれても不幸じゃなかった・・・っ。普通の家と違ってても平気だったし、羨ましいなんて思ったこともなかったの。楽しいことも嬉しいこともぜんぶお兄がくれた。これからもずっと、おじいちゃんとおばあちゃんになるまでずっとっ、あたしのお兄でいて・・・!」

込み上げて溢れ出た、涙ごと一気に。

本当に本当の心からの願い。
ずっと妹でいさせて。
あずって呼んで。
頭を撫でて。
抱き締めて。

「・・・お願いお兄、縁を切るなんて言わないで」

答えは分かってた。

「隆二のところに行かせて、おねがい・・・」

叶わないのも知ってた。

「ごめんね・・・っ。・・・ワガママ言って、ごめ」

最後までちゃんと言うつもりだったのに。嗚咽を堪えきれなかった。子供みたいにしゃくり上げて泣いた。縋りついたお兄の胸で。
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