スイレン ～水恋～

大事に大事に鳥籠に仕舞われて。痛いことや辛いことを知らずに生きてこられた。お兄が嵐も砂も避(よ)けてくれた。

背中の羽根を、濡らしも汚しもしなかった。他になんて言えばいいか分かんないくらい、感謝しかないの･･･！

唯一の恩返しは、お兄も頷いてくれる男(ひと)と並んで、はにかみながら花嫁姿を見せてあげることだった。

式の終わりに男泣きさせて、寂しそうに笑うお兄に新婚旅行に送り出してもらうの。･･･そうなると思ってたの。

だけどあたしが好きになった男は。ヴァージンロードの代わりに、ハチミツ色の空飛ぶ絨毯を用意してるはずだから。ちゃんとあたしを宝箱に大事に仕舞ってくれるから。心配しないでお兄。

お兄がそうまでして引き離したい柳隆二の正体が何者でも、ハチミツ漬けにされるあたしは幸せだから。きっと笑ってるから。

いつか見届けてね。

縋ってる指先にきゅっと強く力を込め。･･･込めて、ゆっくり離してく。戻りかける衝動を懸命に押し込んで。