スイレン ~水恋~
「・・・・・・お兄」

俯いたままの涙声が小さく震えた。頭の上にはまだ掌が乗ってた。こうされるのがすごく好きだった子供の頃から。

「・・・何があってもあたしはお兄の妹でいるから・・・っ」

お兄が背を向けて笑いかけてくれなくなっても。この手に二度と(くる)んでもらえなくなっても。

「もしいつか・・・隆二を恨むほど後悔しても、あたしのせいだから誰も悪くないから。・・・でも多分あたしは隆二を赦しちゃう気がするの、やっぱりふざけた男だった・・・って」

呆れて、笑えて。秋生ちゃんに慰めてもらいながら怒って大泣きして。

「赦せる男に出逢ったんだと思うの・・・。もっと前に出逢っても、後に出逢っても駄目で、今のあたしじゃなかったら隆二を選べなかった。・・・お兄が杏花さんと出逢えたのと同じ、運命だからきっと」

ぎこちなく頭を上げてく。お化粧も崩れたひどい顔。お兄の眼差しがありありと歪んだ。

「・・・帰るね、隆二のところに」
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