スイレン ~水恋~
恥ずかしさで逃げ出したついでに、他の部屋の扉も端から一枚ずつ覗いてく。

どこもリフォーム済みで新築同然だった。間取りは、8帖ほどのベッドルームと4帖半の茶室風な和室、こぶりな書斎と納戸で3SLDK。ふたりで暮らすにはちょうどいい広さ。素敵。

『今日から住む』の言葉どおり、必要な物はほとんど揃ってた。前より一回り大きいクィーンサイズのベッドから、愛用のシャンプーまで。一体いつの間に。

ただ嬉しくて浮かれた。ここが月の裏側でも、どこだってかまわない。隆二があたしといたいって思ってくれてることが一番だから。

『明日なに食べよう』でもいい。あたしと一緒にいる未来を描いてくれるなら、それだけで。

ひと巡りして戻ればお出汁のいい薫り。ときどきこんな風に伊沢さんに出張サービスしてもらって、秋生ちゃん達も呼んだら泣いて喜ぶかも。

「犬でも飼おっか」

テラス窓の外を眺めてたら背中で隆二が笑った。

リビングと繋がるウッドデッキで、バーベキューしてる足許にじゃれついたり、芝生の庭を駆け回る可愛い小犬を思い描く。
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