スイレン ~水恋~
「あたしはそんな」

お礼を言われるほどのことなんて。

「家なんざ入れ物くらいに思ってやがった男の気を変えたのは、お嬢さんだ。根なし草が根っこ生やすのは簡単なことじゃねぇんで」

淡く口角を上げた伊沢さんの言葉に胸が詰まる。

「おまけに、一ツ橋の若や藤代のお嬢みてぇな気安いツレまで出来やがった。・・・お嬢さんの他はいやしませんよ。もっと自惚れちゃどうです」

隆二が兄とも慕う相手からの最上級のエール。顔がくしゃりと歪んだ。ただ信じる勇気とか勇気とか、勇気をもらえて半泣き笑い。

「女冥利に尽きます・・・っ」

気負って努力してるつもりはないの。隆二が笑ってられるように、あたしが笑ってられるように、ときどきハルトさんと秋生ちゃんも巻き込んで、それだけ。これからも。

自負はある。あたしが特別なこと。でも自惚れるのは取っておくわ、最後まで。
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