スイレン ~水恋~
「オレだけ仲間外れ?」

聴こえててか、聞いてないフリか、いつの間にか後ろから腕を回される。

「隆二には勿体ねぇ好い女の話だ。・・・そろそろ客が来る頃だろうが?ガキを構ってるヒマはねぇよ」

「言われちゃったなぁ」

素っ気なく手元を動かし始める伊沢さんに、おどけた気配であたしの頭の天辺にキスが落ちた。

「タツオが着いたってさ」

慌ててガレージに向かえば、ツートンカラーの愛車が隆二の車と縦並びで駐車され、電動シャッターがゆっくり下がってくところだった。

体を屈めて運転席から降りてきた志田は、相変わらずのうんざり顔で目礼した。

「・・・今度は田舎暮らしですか。どこまで柳に振り回されるんです?」

「田舎って。地図アプリで見たら、実家(うち)まで車なら一時間もかかんないじゃない」

手渡されたキーを受け取り、歩き出しながら。ジャンパースカートの裾がひるがえる。

「おかげで飽きるヒマもないわよ?隆二に」
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