スイレン ~水恋~
つくづく思い知った。頭はもう完全に食べ尽くされてる。命令する脳なんかなくたって、残った手も足も隆二の言うことしか聞かないのよ絶対。

「・・・いっぺんに食べるとお腹こわすわよ?」

「でも、ガマンするの嫌いでねぇ」

険呑さを掻き消した、隆二の艶めかしい笑みが向く。

「タツオが帰ったら食べさせて」

鼻の頭を食まれついでに唇も盗まれた。

・・・ねぇ。最後はあたしをハチミツがけのデザートにして。優しく溶けたいから隆二の中で。

志田は、うんざりを通り越した様子でテラス窓の外に視線を投げ出してた。お兄だって鬼の面を外してくれたのに、世話係のほうが一徹。

支度が整ったと伊沢さんの声がかかるまで、黒スーツの無表情男は一度もあたしと目を合わせなかった。
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