スイレン ~水恋~
外はしっとり暮れ、仄明るいダウンライトの下でカウンターテーブルを囲む。この四人で宅飲みする日が来るなんて想像もしてなかった。志田は置物になるのかと思ったけど、ときどき隆二と伊沢さんの会話に混ざる。・・・意外。

淡々と知らない組の話をしてるのを聞いてると、ただの口うるさい世話係と恋人と、小料理屋の大将じゃないんだって思い出す。

箸を伸ばしながらハイボールを一口、二口。馴れ合いはしなくても、隆二と志田にはどこかに古い結び目があって。切れそうで切れない気もした。

「お嬢さんには詰まらねぇ話でしょう」

「そうでもないです」

伊沢さんが気を利かせ、白和えやだし巻き玉子を取り分けて前に置いてくれる。

「二人がフツウに喋ってるの珍しいし」

「じゃあもっと梓の期待に応えよっか」

ふいに頭の上に乗った温もりと、クスリ笑い。

「・・・気色悪いこと抜かすな」

「冷たいとお嬢に嫌われるよ?」

「黙ってろ」

「みっともねぇ張り合いは、よさねぇか」

軽く一喝。切子のお猪口を二本指で摘まんだ伊沢さんが、カウンターの向こうから含み笑いを滲ませた。
< 239 / 293 >

この作品をシェア

pagetop