スイレン ~水恋~
「お嬢さんの事となるとどうにも、隣りの芝が青くてしょうがねぇガキ共なもんで」

目を瞠る。

突っかかり合いはてっきり、彼氏VS彼氏を気に入らない父親的な対抗心だとばっかり。恋人と世話係がなにを羨むの。

身に覚えのある既視感。あたしと杏花さんもお互い、隣りの芝がふっさふさに見えてた。お兄の愛情の天秤が相手に傾いてるようで嫉妬した。理不尽にさえ思った。

彼女と腹を割った今は、おなじ芝でも種類が別なのを納得できてる。お兄の愛情の撒き方が違うのは当たり前って。

隣りを見上げると、目の合った男がどことなく困り顔で口の端を緩める。

「参ったなぁ伊沢さんには」

「千倉の志田と鷺沢の柳でしか、してやれねぇ事もあるだろうよ」

押しつけがましいでもなく、お説教じみてもなく。

「お嬢さんにとっちゃ、どっちも代わりなんざねぇぞ」

お猪口の中身を呷った伊沢さんは、言ってシニカルに口角を上げた。

それぞれに合わせながら、お兄はあたし達と向き合ってくれてる。奥さんが最優先かもしれない。だけど妹の為なら命さえ惜しまない。

そういうことなの。

「あたしの一番は隆二に決まってるでしょ」

わざとらしく呆れてみせる。

「でももし、大事なものを二つだけ持って逃げろって言われたら、隆二と志田を抱えてくわよ?」
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