スイレン ~水恋~
それだけあれば生きていける。素直に思ったんだから。

「持ってかなくても、タツオは勝手についてくるよ」

「・・・柳の知ったことか」

軽口でタコわさに箸を付けた隆二の不敵な横顔。その向こうで不愛想男が呟いた。ぶっきら棒でも棘は抜けた声だった。

ふと。志田をここに来させるよう仕向けたのは、伊沢さんな気がした。あたしを挟んで大人げない、二人のあいだの風通しを良くしようとしてくれたのかなって。

和気あいあいには程遠かったけど。あとで笑って、懐かしく思い出せたらそれでいいわ。うるさい志田に見つからないよう、こっそり笑みをほころばせた。




「本当にありがとうございました・・・!今度は伊沢さんを招待しますね、隆二が腕を振るうので」

ガレージまで見送りに出て、冗談めかしながらお礼を言う。
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