スイレン ~水恋~
命を預かる約束で、全部を縛るつもりはないわ。見返りもないんだし、最後まで付き合う義理だってない。

「勝手にさせてもらえませんかね」

声に温度はなくても、刺すような気配で本音だと伝わる。お兄は、志田のうんざり顔と普段の見分けがつかないって言ってた。あれだけ、あからさまなのに。

「・・・今は目の前の女で手一杯ですよ」

逸らした眼差しは、ことさら素っ気ない気がした。
外の見回りだと、志田がリビングを出てったのを背中で聴き、独りごちた。

「甘やかすのは性に合わないんじゃなかったの」
 
ガラスのカップに口を付けると、生搾りレモンの酸味とハチミツの心地いい甘みが、絶妙な混ざり加減で喉元を過ぎてく。

志田は家族じゃないけど家族みたいなもので、極道だから人並みの幸せに縁遠いって思わないでほしいし。同じ境遇で育って、同じ世界に拾われた隆二がいつも笑ってるから、笑わない男に余計な気を揉んでるのかもしれない。

さっきの顔だと取り合う気は毛頭なさそうだった。肩で息を吐く。石頭。好きにしなさい。

「親の心子知らずよね、ほんと」

お嬢には言われたくありませんがね。

空耳が聞こえた。





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