スイレン ~水恋~
十二月に入った途端、予告どおり隆二は家を空けることが多くなった。あたしはあたしで、セルドォルは年に一番の繁忙期。オーナーの由里子さんにお願いされれば追加シフトも断りづらい。

すれ違う時間を惜しんでは、朝となく昼となく、言葉の代わりに唇で確かめ合い、奥まで繋がって濃縮した熱を躰に刻み合う。

『仕事が片付いたら温泉でも行こっか』

ウッドデッキで、日向ぼっこしながら宅飲みするのが気に入りの男が、甘い声で珍しい埋め合わせを口にした。

クリスマスはサンタの代わりに志田がやって来ても、しょうがないから大目にみるわ。





気が付けばイブのイブ。朝帰りだった隆二は一緒にブランチしたあと、バイトから戻ったら、またいなくなってた。

ランドリーバスケットに放り込まれたスーツも黒シャツも、隆二のじゃない煙草の匂いが染みついて。

極道の娘なのに。隆二と違う世界に立ってるような、自分だけ置いてかれてるような。心許ない気がした。
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