スイレン ～水恋～

イブかクリスマス当日のどっちか休めるよう、由里子さんが計らってくれたおかげで、二十五日はフリーだった。真面目に仕事してるらしい男は一昨日(おととい)から帰ってない。黒スーツの仏頂面しか見てない。･･･サンタクロースの根性なし。

でも、今夜は起きて待つって決めてた。

あたしにとってはただのイベントなんかじゃなかった。誕生日はないって笑った隆二を、マリア様にかこつけて勝手にお祝いする生誕祭。『生まれてきてくれてありがとう』の気持ちを詰め込んで、大事な男を特段に甘やかす日。

だから待ちたいの。

ローストポークの下ごしらえにかかりながら、カウンターテーブルに飾った可愛らしいツリーの置物に目を細める。店に入荷して即買いしたお気に入り。

甘さ控えめのベイクドチーズケーキも焼いて、クラムチャウダーは具沢山にして。わりと野菜を食べたがらない分、スープや味噌汁にはこれでもかってくらい種類を放り込む。

きっと外食ばっかりだろうし。胃に優しいメニューをあれこれ浮かべ、手を動かした。早く帰ってこないと、ぜんぶ志田のお腹に収まっちゃうわよ？

返事は聞こえなかったけど、胸の中で隆二が笑った。