スイレン ~水恋~
根拠はないけど帰ってくる気がしてた。バレンタインやホワイトデーも、そういうお約束を外す男でもないから。

夜中だろうと明け方だろうと、『遅いわよ!』って文句言いながらキスで迎えて。それからクリスマスの仕切り直し。

志田にはデザートまでしっかり味わってもらうと、あたしは軽めに空腹を紛らわせながら、テレビ相手に待ち人の持久戦。付き合わなくていいのに、世話係もリビングから一歩も動かない。

眠気覚ましに淹れてもらったカフェオレで温まり、クッションを抱え込んで、ソファに転がったあたりは覚えてる。

「こんなとこで寝かせるなよ」

「・・・待たせたのはお前だろうが」

ふと覚醒した。重低音の会話がぼんやりした頭の芯に響く。いつ寝落ちしたんだか。

脳からの指令が行き渡ってない躰が、横抱きで難なく宙に浮いたのを、「隆二・・・?」と唇から零れた。

「ただいま。一緒に風呂入ろっか」

「うん・・・おかえりなさい・・・」

甘い声に甘えるように胸に顔を埋めバスルームへ。

呆気なく文句も消し飛んで、欲情の底に沈められた。(から)になりかけてた自分の中が、(とろ)けた蜜で溢れるまで。
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