スイレン ~水恋~
自嘲気味に口許を歪めると、滲ませた涙の理由は噤んだ(ひと)。何もなかったように水の滴る音や、小さく陶器のこすれる音が響く。

生まれも知らない隆二を、子供の頃から弟同然に可愛がってきて、なにか込み上げたものがあったんだろうか。

やがて角皿に三つ並んだ俵型のいなり寿司が、前に置かれた。

「口に合えやいいが・・・」

実家(うち)はよく、おはぎとセットでした」

淡い笑みが覗いたのを、あたしも大袈裟に明るく。

薄味のお揚げと甘めの酢飯と、高菜の塩味加減が絶妙で素朴。中身がずっしりな二つをあっという間に平らげ、「これ絶対好きです」と破顔する。

「そいつは何よりだ。・・・食わせてやってくれと隆二の奴に頼まれましてね。ついでに余計な頼みも引き受けちまいました」

「余計な頼み?」

「お嬢さん」

問いに答えは返らなかった。底の見えない闇色の眼差しがただ真っ直ぐ、あたしを刺し貫いてた。

「隆二は戻ってこられねぇんで」
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