スイレン ~水恋~
「・・・もうちょっと優しい言い方ないの?」

拗ねて見せたあたしを見下ろし、立ったまま溜め息雑じりにティッシュを箱ごと差し出す志田。

「女を甘やかすのは性に合いません」

「時と場合があるでしょう、・・・バカぁ」

引き抜いたティッシュで目許を押さえ、恥じらいもなく鼻をかんだ。

「梓お嬢の気の済むようにしてやれと若に頼まれましてね。明日はどこか出かけますか」

「志田とじゃつまんない・・・」

それでも志田なりの気遣いだったんだろうけど、つい。素直な本音が漏れた瞬間に頭上から漂ってきた冷気。恐る恐る視線を吊り上げていけば氷の眼差しが音もなく細まった。

「・・・若にはくれぐれもと言われてましてね。留守中は自分が付きっきりですが、問題でも?」

蛇に睨まれた蛙。の気持ちがよく身に染みた。



お兄のばか。志田のバカぁ。ベッドの中で唱えながらいつしか眠りに落ちた。・・・ひとり寝が切ない夜だった。
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