スイレン ~水恋~
『・・・いや。まだ外か?気に入ったのが買えたか?』

あたしがいちいち予定を教えなくても志田から筒抜け。脇に並んだショップバッグを目で数えながら。

「いま帰りの途中。調子に乗って買いすぎちゃったかも」

『あって困るもんじゃないだろう。・・・明日は映画だったか』

「そう、前から観たかったの。志田は横で寝てると思うけど」

わざと意地悪く当人に聞かせると、小さく咳払いで返った。

「お兄はゆっくり楽しんでる?杏花さんは・・・?」

『風呂だ。・・・こっちの夜はまだ冷えるな。だが静かでいいぞ。次はあずも連れてきてやるからな』

やんわり笑んだ顔が浮かぶ。

きっと。拗ねて志田の手を焼かせてるはずの妹が気がかりで掛けてきたの。新婚旅行なんだから、そんなお子様なんてほっといていいのに。胸の中がじんわりする。

生まれ変わったら次こそ恋人になりたいって思ってた。なんでだろう。何度でもお兄の妹に生まれたい。溶け残ってた氷が形を変えてくようにそう思う自分がいた。
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