スイレン ~水恋~
「・・・ねぇお兄」

『ん?』

「杏花さんが好き?」

ずっと口惜しい気持ちに邪魔されて今更だけど。

「結婚してよかった・・・?」

『ああ。そうだな』

ゆっくり噛みしめるように。低くて穏やかな声が耳の奥に残る。

「ならいいの。・・・幸せになってねお兄」

素直に口から零れた。
やっと言えた心からの祝福。

『俺より梓だ。お前が幸せになる為なら何でもしてやる、いつでも頼りにしろよ』

「うん。ありがと・・・お兄」

力強い愛情がひしと伝わってきた。血の繋がりで結ばれてることがこんなにも誇らしい。

通話を切り、ふっと息を吐く。お兄にベッタリの甘ったれからは卒業できそう。でも。お兄より惹かれる(ひと)に出逢うまでは先が長そう。

仄かな苦味を飲み込んだあたしは諦めを混ぜ、・・・微笑んだ。





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