スイレン ~水恋~
お兄の横顔をうかがう。知ってたらあたしを連れてくるはずないの、こんなお見合いもどきに。

眉一つ動かさないお兄の口の端がゆっくり開いた。温度のない眼差しを僅かに眇めて薄く口角を上げる。

「挨拶くらいなら構いませんが」

そう仕向けられてるんだから、口惜しいけど断りようがない。

「淳人君ならそう言ってくれると思ったよ。あずちゃんも、まあ気楽な気持ちで会ってみるといい」

「お兄がいいならあたしも全然」

控えめに微笑みながら見えないマシンガンで百発は撃ち込んでおいた。いつでも世界中があざといセンセイの思惑どおりになるとでも?

元だけでも取って帰る気で前菜からしっかり味わい尽くす。シェフの腕は本物らしく今までとは格の違うフレンチを堪能した。もう一回分くらいはご馳走してもらわないと割りに合わないけど!
< 38 / 293 >

この作品をシェア

pagetop