スイレン ~水恋~
「一時間くらい潰せば陽人が来るから、まあいっかー」

ぐるりと店内を見回し、サバンナの特大パネルに目を留めた秋生ちゃんは、「わりとスキかな」と好評価を下す。お願いだから行きつけにはしないでね?!

何とはなしに頼んだバレンシアを一口、二口。・・・・・・・・・。あの時のほうが仄かな甘味が残った。ような。

ホワイト・レディを前に、バーテンダーと気さくに会話を弾ませるお隣。人見知りとまでは行かないけど、自分から乗ってくタイプでもないあたし。秋生ちゃんもよく知ってるから、ところどころで話に引っ張り込んでくれる。

「ところでヤナギさんて、ずっとお店に出てる人じゃないんだー?」

「あーまあ。テキトーに来るカンジで」

「今日は来ない?」

「んー、どうっスかね」

だいぶ口調が砕けたバーテン君の曖昧な返答に、大袈裟な嘆息を漏らして秋生ちゃんが芝居がかる。

「ねぇキミさ、ヤナギさんに『アズサって女が来てる』って教えてあげてくんないかなぁ?そんなの知らないって言われたらさっさと帰るけど、彼のお気に入りならこのまま帰せないって思うよねぇぇ?」
< 65 / 293 >

この作品をシェア

pagetop