スイレン ~水恋~
3-2
「これから社長が来るみたいですー」
「そうなの?」
手の空いた合間にお手洗いに立ち、戻ると受付的な業務を任されてるもう一人の女子社員、木村星がチェアーごと寄せてあたしに耳打ちした。
二人のデスクは、オフィスと商談スペースの区切りも兼ねた横長のカウンター。セールス込みの来客の対応や電話応対がメインだ。
ちなみに会社は表向き、不動産売買・仲介。たぶん裏ではあれやこれや。駅近の通りに面した賃貸マンションの一階に、素知らぬ顔で『株式会社STD』の看板を掲げてる。もちろん社員は千倉の資金源だなんて正体を知らない。
パーティションで遮られた奥からは、電話でやり取りする男性社員の軽快な営業トークがだだ漏れてくる。紛れるように星がひそひそ続けた。
「専務の声が聞こえましたもん、『来るまでに片付けとけ』って!」
不定期に顔を出す社長の片腕役、江上さんは組でもそこそこの中堅なんだとか。お父さんの人選だったのかお兄なのかは知らないけど、志田と反りが合わないって噂も聞かない。
「千倉さん、お茶出しお願いします~。コワくて緊張しちゃうんですー」
「ハイハイ」
ハムスターぽい癒やし系な彼女に懇願され、苦笑い。気持ちは分かんなくもないわよ。無表情な社長と取っつきにくそうな専務を前にしたらね。
「そうなの?」
手の空いた合間にお手洗いに立ち、戻ると受付的な業務を任されてるもう一人の女子社員、木村星がチェアーごと寄せてあたしに耳打ちした。
二人のデスクは、オフィスと商談スペースの区切りも兼ねた横長のカウンター。セールス込みの来客の対応や電話応対がメインだ。
ちなみに会社は表向き、不動産売買・仲介。たぶん裏ではあれやこれや。駅近の通りに面した賃貸マンションの一階に、素知らぬ顔で『株式会社STD』の看板を掲げてる。もちろん社員は千倉の資金源だなんて正体を知らない。
パーティションで遮られた奥からは、電話でやり取りする男性社員の軽快な営業トークがだだ漏れてくる。紛れるように星がひそひそ続けた。
「専務の声が聞こえましたもん、『来るまでに片付けとけ』って!」
不定期に顔を出す社長の片腕役、江上さんは組でもそこそこの中堅なんだとか。お父さんの人選だったのかお兄なのかは知らないけど、志田と反りが合わないって噂も聞かない。
「千倉さん、お茶出しお願いします~。コワくて緊張しちゃうんですー」
「ハイハイ」
ハムスターぽい癒やし系な彼女に懇願され、苦笑い。気持ちは分かんなくもないわよ。無表情な社長と取っつきにくそうな専務を前にしたらね。