スイレン ~水恋~
「柳さんは昔からああで、年寄りには煙たがられるが下からは慕われていた。俺も随分と面倒を見てもらってな、返しきれてない(もの)もまだある」

確か二つ違いくらいで。あたしにとっての秋生ちゃんみたいな存在だったんだろう、きっと。

「女癖を抜きにすれば男として間違ってる人だとも思わん。あずの見立ては悪くない、本当だ」

低く畳みかけてくる響き。固唾を呑む、その先を待って。

「だが柳さんに女を幸せにする生き方は無理だ。俺の知らない顔をあずが見てるように、お前が知らないあの人を俺は知ってる。大事な妹が泣くのを承知で見過ごすつもりはない。・・・今ならまだ傷も浅いだろう。恨むなら俺を恨んでいい、代わりに俺がいくらでも償う、お前の気が済むまで」

お兄が初めて眼差しを歪ませた。そして。

「柳さんのことは忘れてくれ、・・・頼む」

深く頭を下げられた。信じられない思いだった。茫然と言葉を失くした。

だって。お兄がそこまで言うなんて。あたしに詫びるなんてそんなの。

ずるい。
ずるい。

ひどい・・・っ。
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