壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
朝、昨日のように仕込みをしていた時、斎藤一はやってきた。

私の姿を上から下まで見渡したのち、「ついてこい」と私に話しかけた。

認められた、そう思い私は斎藤一についていき、このまま屯所に連れて行ってくれるのだと思っていた。

しかし、斎藤一が連れてきたのはどこかの寺の境内で、そこまで来ると腰に差していた刀を一対抜き取り、私に差し出した。

「新選組に弱い奴はいらねぇ。
谷だけで十分だ。

それで俺に斬りかかってこい。
もちろん本気でだ。

剣術の腕に自信があると言っていたが、本当に腕に覚えがあるかは俺が試す。
いつでもどうぞ。」

斎藤一が鞘を抜くのを確認し、私も鞘から刀を抜いた。

初めて持つ真剣の重みは腕にこたえ、構えの姿勢をとるだけで一苦労だった。

相手の構え方、足の踏み込み具合を確認し、相手がどのように出るのかを考えた後、私は左側から斬りこんだ。

残念ながら一の太刀はかわされてしまい、体勢を崩したその瞬間に相手は私に向かって斬りこんできた。

私は刀でそれを受け、かわした後、再び下から上へ突き上げるように刀を振りかざした。

予想外の動きに一瞬ひるんだのを見逃さず、私は再度左側から斬りこんだ。

そして相手の刀を力ずくで手元から離させ、斎藤一の刀が吹き飛んだところで、腕試しは終了した。

「真剣持つのは初めてか?」

刀を回収し、鞘に納めたあと斎藤一は聞いてきた。

「はい。
今までは竹刀か刃引きされている模擬刀のみしか扱ったことがありません。」

私は刀を鞘にしまい、斎藤一に返しながらそう答えた。

「とりあえず、真剣を持っても震えなくなるまで力をつけろ。
下から上に斬りこむのはよかったと思う。
もっと相手と距離を詰められていれば致命傷を与えることくらいできるだろう。

それと、力づくで相手の刀を飛ばすのはやめろ。
どれくらいまでなら力を出せるのか試していたけど、思ったより力が強かったから、あれを実際にやったら、十中八九飛ばすことはできるだろう。

だが、俺たちはひとりで戦うわけじゃない。
お前が薙ぎ払った刀のせいで仲間がけがをするかもしれない。

それが守れるならば入隊させてやる。」

自分の力量を認めてくれた斎藤一に感謝し、私は大きく頷いた。

「それで、お前の名前は?
出身は?
あと、年。」

「本名は杉崎愛望です!
生まれはいわ、盛岡です。
今年17歳になりました。」

「ま、なみ?
ずいぶん変わった名前してやがるな…

まぁ、いい。
今日から杉崎快として生活しろ。
南部出身の下級武士で家が貧しいため、家族を支えるために脱藩したということにしよう。

それだけ刀を扱えるのに、農家出身では怪しまれそうだし、脱藩して新選組に入隊するやつもいるから。」

「杉崎快、わかりました。
あの、斎藤さんのことは何とお呼びすればよろしいでしょうか。」

「斎藤先生とか、そのあたりでいい。
組長を務めている人は先生をつけて呼ぶ奴が多いからな。

七番隊の谷だけは別に先生つけなくてもいいけどな。」

「わかりました。
斎藤先生、よろしくお願いします。」

「あぁ。
くれぐれも女だとばれるなよ。

特に土方副長にばれたら俺まで切腹になるから。」

私は再度「わかりました」と大きく頷いた。
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