壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
ある日、新撰組の組長である近藤先生が油小路で粛清しきれなかった御陵衛士の残党に襲われた。

最近、大政奉還のことで屯所内の話題が持ちきりになっていたため、すっかり御陵衛士の存在は薄くなっていた。

そんな矢先に起きたこの事件は新選組を痛感させるものとなった。

近藤先生は肩に深い傷を負いしばらくは前線に出れない状態となってしまった。

そんな状況に残った新選組隊士も心中穏やかではいられなかった。

「俺が局長の代わりに新選組を率いる。」

そんな状況を見かねた土方先生が新選組隊士を集めて宣言した。

土方先生の力量が近藤先生よりも劣っているというわけではなかったものの、新選組隊士からすると入隊時期に関わらず近藤先生は一目置く存在であり、代理とはいえ土方先生が指揮をするのにまだ納得のできていない隊士がいた。

これ以上の脱退者は出せない。

土方先生が新選組を率いることに従った隊士たちはそう思った。

そこで数名の隊士が名乗りをあげたのである。

今現在各組長を務めている隊士らである。

一部の組長は不在になっていたのだが、一番隊の沖田先生、二番隊の永倉先生、三番隊の斎藤先生、六番隊の井上先生、十番隊の原田先生が土方先生に従い補佐すると名乗りをあげたのである。

土方先生に各組の組長がつけばかなり心強かった。

残った新選組隊士らは再び安心することができたのだ。

この安心が永遠に続くものではないということは誰も口にしなかったがわかっていたことだったので、皆今よりも強くなろうと、近藤先生が指揮をしなくともやっていくことは可能なのだと見せつけるためにも、見廻りの時間を減らしてまで稽古に明け暮れていた。
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