壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
「沖田先生、どうぞお先に。」

私は構えの姿勢をとり、沖田先生にそう言った。

沖田先生は左肩を引き、右足を半歩前に出した状態で構えていた。

私の言葉を聞いた沖田先生はそのままの構えで私のほうへ近づいてきた。

刀の刃の向きなどから、突きが来るのではないかと想像した私は、それを受け流すべく刀を横に向け、攻撃に備えた。

突きは捨て身の剣法と呼ばれているのに、突きをしてくる沖田先生に疑問を持っていたが、その疑問はすぐに解消された。

突きを払い、こちらが優勢になったと思ったのに、沖田先生の刀が私の首の近くにあったのだ。

それにいち早く気付くことができたため、私は一度間合いを取り、刀を構えなおした。

そして右手に力を入れ、沖田先生のほうへ近づくと、右腰めがけて狙いを定めた。

もう少しで相手にあたる、そう確信したものの、それは当たることなく沖田先生の刀にはじかれた。

私はすぐさま体制を整えると、左腰めがけ狙いを定めた。

しかし、今回は左腰に当てることが目的ではなく後ろに回り込むことだったので、沖田先生にかわされることなく、目的地まで行くことができた。

足元に全神経を集中させ、足音を消し、沖田先生の首に刀が届く距離まで来ると、私は刃を横にし、沖田先生の首にあてた。

これで勝負はついたと油断したのがいけなかったらしく、沖田先生はこの絶体絶命の状況から抜け出し、三段突きの構えをした。

すぐさまそれを防ぐべく私も身構えたが、沖田先生のほうが早く、間に合わなかった。

「うっ…」

模擬刀とはいえもろに三段突きを食らった私は短い言葉を発したのち、その場にしゃがみこんでしまった。

「そこまで!」

審判をしていた土方先生が声をかけ、試合は終了した。

沖田先生は私の腕をつかみたたせると、そのまま私を支えるようにして刀を片手に、壁際まで歩いてくれた。

「一君、こいつは…杉崎は強いよ。

隙がほとんどないうえに、気配を消すことができる。

もし三段突きをしなければ間違いなく俺は負けていた。」

やっと鈍い痛みが引いた私は壁にもたれかかりながら、ここまで連れてきてくれた沖田先生にお礼を言い、沖田先生から渡された模擬刀を腰に差した。

「斎藤先生、すみません。
負けてしまいました…」

「平隊士で総司に勝てる奴はまずいない。
総司が三段突きをするときは実戦では見たことがあるけれど、稽古でやったのは多分初めてだ。

それだけ、お前は総司を本気にさせたということ。
総司に勝ちたいならもっと稽古をして経験を積むことだ。

今日は、もう稽古はしなくていい。
三段突きを食らってまだ痛いんだろう?

我慢しているけど、顔が痛みをこらえているように見える。

他にも覚えてもらうことがあるから、今日はそっちをやってもらう。

ちょっと休憩したら部屋に戻って来い。」
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