壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
誰もが刀を振るいながら、勝てると信じていた時だった。

今までの戦況が大きく崩れたのは。

まるで戦況が崩れる合図と言わんばかりに、突如大きな銃声音が伏見一帯を包み込んだのだ。

新政府軍が発砲したのだ。

それ以降も旧幕府軍へ向けての発砲は収まらず、私たちは一気に劣勢になった。

いくら刀を扱うことに優れていても、遠くから相手を狙える銃に勝てるはずがなかった。

「杉崎、お前はいったん撤退しろ!」

「嫌です。
斎藤先生や皆を残して逃げるなんて。」

一気に不利になったため、斎藤先生は私を逃がそうとしたのだが、私はそれを断った。

この戦いには一人だけになっても逃げるなという命令が出ているからではない。

自分だけ安全なところにいることが嫌だったのだ。

斎藤先生たちは強いけれど、それは対等な条件で戦ったときの話だ。

刀と銃、どちらが強いのかなど考えるまでもなかった。

だから、私は斎藤先生の背中を守るため、戦うことを決意したのだった。

「怪我だけは絶対にするなと言いたいけれど、この状況だ…

死ぬな、それだけは約束しろ。」

「斎藤先生も死なないでくださいね。
俺は、絶対に死なない!」

再度私たちは生き残ることを誓い、刀を振るうのだった。
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