壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
「一君、杉崎さんけがはない?」

今、同じように待機命令が出ている新選組はつかの間の休息を謳歌していた。

この前の戦いが嘘のように収まっており、新撰組の隊士を取り巻く空気もかなり軽かった。

「総司、俺たちは大丈夫だ。

三番隊の隊士も何人かけがをしてしまったが皆命に別状はない。

松本先生が診てくれているから大丈夫だろう。

それより総司の方は大丈夫なのか?
犠牲者が出たと聞いたが。」

この前の戦いで犠牲になった隊士は一番隊に所属している隊士だった。

自分の部下が犠牲になって悲しまない上司がいるわけはなかった。

今は平和な時間が流れているが、この先どうなるかはわからず、犠牲者を弔う余裕すらなかった。

「あぁ、ひとり犠牲になった。

俺は自分の組の隊士を守ることができなかったんだ。

必ず生きて帰るという約束をその隊士は果たせなかった。

しかも、それを間近で見ていた隊士が新政府側に寝返るもんだから、正直一番隊の士気は最悪だ。

でも、それが戦わないという理由にはならない。

俺はその死んだ隊士のためにも戦うことを誓うよ。

一君も俺がそうしていた方がいいだろう?

まぁ、戦場でくよくよしてたら真っ先にやられるから、そんな状況で指揮を執ろうものなら、一君に殴られるのだろうけれど。」

最後の方は笑いながら言っていたが、その笑い声は楽しそうなものではなく、とても悲しそうなものだった。

「あぁ、戦場に足手まといはいらねぇからな…」

そう返した斎藤先生も口調は荒々しいにも関わらず、表情はさみしげだった。

私も新選組に入ってから何度も命が消える瞬間を見てきた。

しかしそれらはすべて己の力不足が招いたものだった。

今回のように力不足が原因ではない死を見るのは本当につらかった。

「亡くなった隊士のために俺たちは最後まで戦いましょう。」

今の私にはそう言うのが精いっぱいだったが、斎藤先生も沖田先生も大きく頷いてくれたのだった。
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