壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
翌日、朝廷が官軍を決めた。

官軍の証である錦の御旗は新政府軍のもとでたなびいた。

私たちはこの瞬間、朝廷に戦を仕掛ける朝敵という扱いになった。

私たち新選組を取り巻く空気は一気に下がる所まで下がってしまったのだ。

そして多くの隊士が朝敵にはなりたくないと、ひそかに新選組を脱退していった。

自分たちが朝敵であると知った土方先生と斎藤先生は新選組の隊士の中でも特に落ち込み、この先何を糧にして戦えばいいのかということまで考えるようになった。

「杉崎、教えてくれ。

俺たちはこの後どうなるんだ?」

斎藤先生の言葉は数日後新撰組が、旧幕府軍が勝つことはできるのかということを聞いていないということは明白だった。

私だけが知っている新選組の行く末を聞いているのだ。

いくら世界史選択だったから日本史に疎いとは言っても新選組は有名だからどうなるのかぐらい知っていた。

函館で最後の戦争を土方先生が終わらせると。

土方先生以外の隊士がどうなったのかは知らない。

でも、土方先生が最後の新選組隊士だったということは聞いたことがあるからおそらく…

そんな暗い未来しか残っていないとどうしていうことができるだろうか…

目の前で命を懸けている人たちに言えるはずがなかった。

「私の知っている歴史でも新選組は、旧幕府軍は鳥羽・伏見の戦いで敗北しています。

でも、あきらめることはしなかった。

新選組隊士はどんな状況になっても戦い続けたそうです。
己の信じる義のために。」

斎藤先生は勘がいい人だ。

薄々私が何を言わんとしているかはわかっていたのだろう。

しかしあえて微笑みながら私に話しかけた。

「すまない、変なことを聞いて。

この先何があろうと俺たちは義のために戦えばいいんだよな。

杉崎の知っている未来が何かはわからないが、未来は変えることだってできるよな?

俺たちがあきらめなければ。」

未来は変えることができる。

どうしてそのことに気がつかなかったのだろう。

そうだ、私がこの時代に来たことによって多少は変化していることもあるだろう。

小さな変化の積み重ねが大きな変化をもたらすことだってあるかもしれない。

そんなのは夢だと言われてもかまわない。

信じようではないか。

新選組がこれ以上の犠牲者もなく、勝ち続けこの先も永遠に続くということを。

「私、未来は変えられないって勝手に思ってました。

でも、そうですよね。
諦めなければ未来はきっと俺たちにほほ笑んでくれるはず。

斎藤先生、その未来を俺も一緒に見てもいいですか?」

言った後に告白みたいだったかも、と思ったが、斎藤先生は強く頷きながら「必ず、全員で生き残るぞ」と決意を新たに言い返してくれた。
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