壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
敗戦、主だった隊士の脱退と新選組を取り巻く空気はかなり悪くなっていた。

誰も口には出さないが、何のために戦うのかと心の中で考えていたのだ。

そして一通り考えた後に徳川慶喜に義をつくすためだという結論に至っていた。

徳川慶喜が江戸城にいるからこそ、自分たち幕臣は戦うことができるのだと。

しかし一度悪い方向に転がってしまった石は止まることを知らなかった。

江戸城が新政府軍の手に落ち、徳川慶喜は水戸へ行ってしまったのだ。

今まで忠誠を誓っていた徳川慶喜は幕臣を捨て、自分だけ逃げたのだった。

しかも江戸城を明け渡すと新選組が知ったのは当日の朝であり、交戦は一切認めないと旧幕府が命令したのだった。

目の前で指をくわえ見ていろと言われた新選組はどうしようもない気持ちになっていた。

今まで忠誠をしたがったのはなぜだったのか、自分たちは見捨てられたのか、と。
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