壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
「杉崎さん、これ沖田君から。」

自分が死んだときに私がまだ新撰組にいたら渡してほしいと頼まれていた、そう言いながら松本先生は一枚の紙を差し出した。

それを開くと沖田先生のきれいな字でたくさんのことが書かれていた。

『杉崎さんへ

いざとなると何を書けばいいのかわかりませんが、貴方に伝えたいことを書きたいと思います。

まず何を書こうと考えたときに、前に貴方が石割桜の話をしたことを思い出したので、一緒に行けなかったことを謝らせてください。

私と杉崎さん、一君の三人で一緒に行こうと約束したのに、どうやら守れなさそうです。

結局三年坂も三人で歩かなかったので、私は約束を破ってばかりですね。

私と初めて会った日のことを覚えていますか。

貴方は一君の部屋の片隅で震えていましたね。

貴方が新入隊士だと知ったときに私は心の中で一君も人を見る目がないなと思っていました。

ここで何かを隠す必要もないので正直に書くと、貴方はすぐに死ぬと思っていました。

刀を見たくらいであんなに震えるなんて実践で真っ先に斬られるだろうと。

だからからかいたくなって貴方に試合を申し込みました。

そうしたら、さっきの人とは別人なのではないかというほどの圧で私にかかってきて、負けないために私は三段突きを貴方にしました。

私に負けた貴方はとても悔しがっていましたね。

そんな貴方が稽古を積み、気がつけば二刀流の、新選組内でも五本の指に入るのではないか、もしかしたらそれ以上なのではないかと思ってしまうほど貴方は強くなっていました。

私も貴方と手加減なしの試合をしたら勝てないかもしれません。

今となっては貴方は新選組になくてはならない存在です。

私はもう新選組隊士として戦うことはできませんが、一君とともに新選組の一員として戦い続けてください。

一君は本当に仲間思いのいいやつなので、これ以上悲しませないためにも貴方は必ず生きてください。

そして貴方が知っている未来を一君と一緒に過ごしてください。

局長の部屋の前をたまたま通りすぎたときに聞いた貴方がずっと先の未来から来た人間だということは半分だけ信じてみます。

本当はずっと聞いていたかったけれど、ばれると厄介なので聞き間違いだったのかもしれませんし。

ここからは私の貴方に対する思いを書きたいと思います。

私は本当のことを言うと貴方が好きだと伝えたかった。

最初は男に恋をするなんておかしいと思っていたのですが、貴方が女だと知ったとき、私は貴方に恋をしていたのだと知りました。

その後、近藤先生たちにもばれてしまったみたいですが、私は男として生きる強い貴方にあこがれていたのかもしれません。

でも、貴方の隣にはいつも一君がいたから、私は三人の関係を壊したくなかったから、今更卑怯かもしれないけれど書きます。

貴方は私が生涯で愛したただ一人の人です。

これからも一君と仲良く未来を歩んでください。

私が見ることができなかったものを二人で見て、いつか天寿を全うして会うことができたら教えてください。

天寿を全うするまでは絶対に死なないでください。
私は病気で皆よりも早くこの世を去ってしまうみたいですが、大事な仲間だからふたりには満足いくまで生きていてほしい。

長くなってしまいましたね。

この辺りで終わりにしたいと思います。

最期に一つだけ。

私の人生は貴方と一君に出会えて幸せだった、と私の亡骸のそばで泣いている一君にも伝えてください。

この手紙は見せないでくださいね、あとで怒られちゃうかもしれないので。

新選組一番隊組長 沖田総司』
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