壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
私は沖田先生からの手紙を涙なくして読むことができなかった。

この手紙を読んで私は沖田先生が私の本当の性とこの時代の人間ではないということを知っていたのだということに気がついた。

沖田先生がいつから私が女だと気づいていたのかはわからなかったが、この感じからするとっずっと前から気がついていたのだろうと思った。

それでも何も言わなかったのは沖田先生の優しさだったのだろうと思い、私は手紙を懐にしまった。

そしてまだとめどなくあふれる涙を袖で拭ったあとに斎藤先生に声をかけた。

「沖田先生が斎藤先生に伝えてほしいことがあるって…

沖田先生は幸せだったそうです…

斎藤先生に出会うことができて…」

先ほど拭ったにもかかわらず、私の目にはまた涙がたまっており、それは頬をつたって落ちていった。

斎藤先生もまだ泣いていたが、少しは落ち着いたらしく、沖田先生の血を手ぬぐいで拭いながら「総司の口から聞きたかった、どうして先に逝っちまうんだ」と呟いていた。

沖田先生の亡骸は翌日寺に埋葬された。

現在旧幕府軍がかなり窮地に立たされているため、新選組隊士全員で沖田先生を見送ることができず、見送ったのは私と斎藤先生だけだった。

私たちは沖田先生が埋葬されるその瞬間までずっと涙を流していた。

笑顔で見送りたかったのだが、どうしてもできなかったのだ。

埋葬が終わり、沖田先生の死を弔った後、私と斎藤先生は沖田先生に誓った。

「見ていろ、総司。
俺がお前の見れなかった未来を見てやる。」

「沖田先生、必ず生きて見せます。
いつか向こうの世界で会えた時に斎藤先生と見た石割桜の話をしますから楽しみにしていてください。」

私たちの誓いは線香の煙とともに沖田先生のいる世界へ行っただろう。

そう心の中で思いながら私たちは沖田先生のもとを離れた。
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